第7話 ナルとメル、決闘を申しこまれる


 次の日、キャシーと一緒に学校に行く途中、公園の中にケガをした大きな子どもが立っていたの。

 今日も三人でいるから、仲がいいのかもしれないわね。

 確かブロワっていう名前だったわね。


 彼が手にお花をもって近づいてきたの。

 今日は、イジワルするつもりはないみたいね。


 私の前に来ると、大きな赤い花をぐしゃって手でつぶしてる。

 なんでそんなことするんだろう。

 お花がかわいそうだから、落ちる花びらを手で受けとめたら、その大きな男の子が急にニヤッと笑ったの。


「これで、決闘成立だな」


『けっとー』? 

『けっとー』って、何かしら。


「俺は、サプライズ子爵家長男ブロワだ。

 今日の放課後、校庭で待ってるぞ」


 変な人ね。

 人の話も聞かないで、どこかへ行っちゃった。

 それから、私たちは学校に行って普通に授業を受けたの。


 大騒ぎになったのは、授業が終わってすぐだったわ。

 この前お菓子をくれたお姉ちゃんたちが、教室に入ってきて、私たちの所に来たの。


「ナルちゃん、メルちゃん、ブロワからの決闘の申しこみを受けたってホント?」


「お姉ちゃん、『けっとー』ってなあに、?」


「ああ! 

 やっぱり知らなかったのね。

 あいつ、あなたの前で花をにぎりつぶさなかった?」

 

「うーん、そういえば、そんなことしてたよ」

「うん、してたー」


「ナルちゃん、花をどうしたの?」


「こうやって、落ちないように手でひろったの」


「まあっ!

 思ったとおりだわ! 

 ナルちゃんたちが何も知らないと思って、決闘をむりやり受けさせたのね」


「だからー、『けっとー』ってなにか教えて」


「よく聞いてね。

 握りつぶした花を受けとると、相手と戦うよって意味になるんだよ」


「ふーん」

「ふーん」


 お姉ちゃんは、私たちが、もっと何か違うことを言うと思ってたみたい。

 呆れたような顔をしてたの。


「ナルちゃん、あいつと戦って勝てると思う?」


「うーん、分かんない」

「戦ったら、お菓子くれる?」


 もう、メルは食べる事ばっかりね。


「ああ、大変! 

 この子たち、何も分かっていないわ。

 どうしよう」


 お姉ちゃんの顔が青くなってる。


「キャシー、校長先生を呼んでくるから、絶対この二人を教室から出しちゃだめよ」


 お姉ちゃんは、キャシーにお願いしたら、走って教室を出ていった。

 それから少しして部屋のドアが開いたから、お姉ちゃんが帰ってきたと思ったらブロワだった。


「おい、お前たち。

 決闘の時間だぞ。

 早く校庭に出てこい」


「なんでそんなことしないといけないの?」

「なんでー?」


 メルも同じ気持ちみたい。


「決闘に来なければ、お前の父親が馬鹿にされるぞ」


 えっ?! そうなの?


「じゃ、行く」

「いくー」


 キャシーが止めたけど、パーパがバカにされるのはいやだから、教室から出た。

 私たちは、ブロワのうしろを歩いて学校にある広場のような所に来たの。

 ブロアにもう一人が近づいて来たんだけど、それは大人だった。

 昨日会ったヒゲのおじさん。


 おヒゲさんは、手にぼうきれのようなものを持ってたの。

 あれって、『わんど』かしら。

 魔術を使う人が持っている道具ね。

 おヒゲさんは、魔術師かもしれないわね。


「立会人はいないが、これだけ多くの生徒が見ていれば問題ないな。

 さっそく始めるぞ」


 ブロワが言った通り、私たちの周りには、生徒がいっぱい集まってきてるの。

 授業が終わってあまり時間がたってないから、みんなまだ学校にいたのね。


 ブロワが一歩前にでようとしたときだったわ。

 私たちの後ろから、きれいな声がしたの。


「待ちなさい」


 女の人の声だったわ。

 大きな声では無かったけど、ブロワとおヒゲは、動けなくなったみたい。


 振りかえると大きな帽子をかぶった女の人が立ってたの。

 すらりとして、とてもきれいな人だったわ。

 帽子で顔がよく見えなくてもそれは分かるの。


 おヒゲのおじさんもローブをつけてるけど、この女の人のローブは全くちがったの。

 風が吹くと、キラキラ光るんだよ。


「私が立会人をやるわ」


 女の人がそう言ったの。


「おい、立会人は子爵以上の爵位が必要だぜ」


 おヒゲのおじさんが、何か言ってる。


「心配ご無用よ。

 それより、立会人無しでそんな小さな女の子と戦えば、まちがいなく罪に問われるわよ」


「け、決闘をこいつが受けたんだから、いいだろ」


「それとこれとは別。

 なんなら法に詳しい人に聞いてみる?」


 ブロワとおヒゲは、目を合わせた。


「しょうがねえ。

 邪魔にならねえように離れたとこに立ってろよ」


「安心して。

 私は、邪魔しないから」


 女の人はそう言うと、みんなが見ているところまで下がったの。

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