第77話 英雄と陰謀(2)


「リーダー!」

「シローさん!」


 食堂に入るなり、ミミとポルが駆けよってきた。

 

「二人とも、大聖女様の護衛ご苦労様」


「ねえ、あの後、スレッジはどうなったの?」


「ミミ、それは後でいいでしょ」


「だって、シリルちゃんやおばば様がどうなったか、心配じゃない」


「それは、そうだけど……」


「ミミ、ポル、食事の後で、その辺の事も話すからね」


「えー、早く聞きたいのに――」


「ミミ、わがまま言わないの。

 それに、料理の仕上げが残ってるでしょ」


 興奮気味のミミをポルがたしなめる。


「そうだった!

 じゃ、リーダー、また後でね。

 ポン太、ぐずぐずしないの」


「ええっ!

 どうしてそうなるの?」


 ミミとポルは、いつも通りだな。

 友人たちに囲まれ、俺は故郷に帰ってきたような感覚を味わっていた。


 ◇


 屋敷に着いてすぐは、知らない人もいたからおとなしくしていたナルとメルだが、食事が始まると、元気いっぱいになった。


「パーパ、これ、凄く美味しい!

 なに、これ?」

「美味しーっ!

 んぐんぐ、はーっ!」


 二人とも、目を輝かせて料理を口に運んでいる。

 料理を作ったミミママとミミパパが、目を細めてそれを見ている。


「ナルちゃん、メルちゃん、今日の料理はね、こちらにいらっしゃる猫賢者様のレシピなんだよー」


「猫賢者様すっごーい!」

「レシピってなーに?

 この美味しいヤツ?」


 ミミの説明に、ナルとメルがそれぞれの反応を見せる。

 なるほど、料理の手が込んでいたはずだ。猫賢者のレシピだったか。

 

「今日は特別なデザートがある。ニャ」


 猫賢者がそう言うと、メイドたちが、果物をワゴンに載せ運んできた。

 その茶色い果物には見覚えがあった。


「あっ、この果物は……」


 俺が名前を思いだせないでいると、ポルが助けてくれた。


「ライコンの実ですよ」


 そうだった。俺とポルが最初に出会ったとき、ミミの両親がやっている食事処、『ワンニャン亭』で食べたんだ。

 俺は懐かしくて胸がいっぱいになった。


「うわっ!

 すっごく美味しいっ!」

「甘いー!」


 ナルとメルにも好評のようだ。


「そうか、これ食べてから、この世界で一年か……」


 ストローのようなもの果実に差し、そこから上品な甘さの果肉を飲むようにして食べる。懐かしい甘さと酸味が口の中に広がった。

 俺は一口食べた果実をポルの前に持っていく。


「ポル、俺はもうお腹いっぱいなんだ。

 食べてくれないか?」


「いいんですか!?

 じゃ、遠慮なくいただきます!」


 このライコンの実は、ポルの大好物だ。

 彼がおいしそうに食べているのを見ると、こちらも幸せな気分になる。

 ふと見ると、ミミがポルの顔をぽーっと見ている。

 幸せな気分になるのは、俺だけじゃないようだ。


「これは夜食用に用意しました。

 お好きなだけ、お部屋にお持ちください」


 ミミパパが、ワゴンに載せ運んできたものは、飲み物が入っているだろう小さな樽がたくさんと、緑の丸い木の実だった。


「あっ!

 これ、ポコだ!」

「ポコ、ポコ」


 ナルは、木の実のことを覚えていたようだ。

 さっそく一つ口に含んでいる。

 

「甘ーい」


 ポコの実は口に入れてしばらくたつと、溶けて甘い果汁になる。


「二人とも、ポコは三つまでにしなさい」


 コルナが、ナルとメルに言いきかせている。


「「はーい!」」


 二人は俺より『コー姉』の言う事を聞くんだよな。

 

『(・ω・)ノ ご主人様がしっかりしないからですよ』

 

「ミーミー!」(そうそう)


 あちゃー、ブランの言葉が分かるようになったのはいいけど、点ちゃんとブラン二人して責められてる感じがする。

 

 ◇


 コルナは眠くなったナルとメルを連れ、二階の寝室へ行った。

 客室に集まったみんなの前で、『神樹戦役』のあらましと、その後スレッジで起こったことを話す。


「世界群は、本当に危なかったんだな……」


 アンデが静かに言った一言が、みんなの気持ちを表していた。 


「おばば様……」


 ミミはおばば様の最期を聞き、涙を流している。

 

「真竜の方々が、世界群の崩壊を止めるのに一役買っていたとは。ニャ~」 

 

 猫賢者は、子竜たちの働きに感心している。


「リーヴァス先生、凄いなあ」


 ポルは剣の師匠が帝国一の剣士を打ちやぶったことに、改めて感動している。


「お姉ちゃんが、そんな活躍を!」


 コルネは、姉の活躍を喜んでいる。


「デデノたち、いい働きしてんなー!」


 冒険者たちは、仲間の働きを素直に喜んでいる。


「史郎君、世界群の崩壊について、聖樹様はどうおっしゃられてたの?」 

 

 舞子はその顔に一抹の不安を浮かべている。  


「舞子、安心して。

 崩壊の危機は去ったよ。

 聖樹様から、そうお言葉を頂いた」


「そう……良かった」


 彼女は心底ほっとしたのだろう、体の力を抜き目を閉じた。


「イリーナ、ターニャさん、舞子がスレッジに行ってる間、ずい分頑張ってくれたそうですね。

 ありがとう」


 イリーナとターニャさんが視線を交わし、にっこり微笑んだ。


「シローお兄ちゃん、こちらこそありがとう」

「そうですよ、シロー様」


 大柄な犬人アンデが俺の肩を叩く。


「おい、シロー、小聖女様と従者様にお礼を言うのは、俺たちの役目だぜ」


「ああ、アンデ、今回はルルや家族がギルドに世話になったね」


「おい、水臭い事を言うなよ。

 お前がいなきゃ、今頃この世界は無かったんだぜ。

 みんな、お前やお前の家族のために何かするのが嬉しいんだ。

 礼は不要だぜ」


「ああ、分かってる。

 だけど、聖樹様からのお礼は受けとってもらわないと困るぞ」


「えっ!?

 聖樹様からのお礼?」


「ああ、デデノたちが帰ってきたら、一人一人に渡すからな」


「一人一人にって、一体なんだそりゃ?」


「その時のお楽しみだ」


「そうか、まあいいだろう。

 今回はギルドに顔を出せるんだろう?」


「ああ、明日寄らせてもらうよ」


「おお、どうせならお前の部屋もあるんだから泊ってけよ」


「今回は、子供たちがいるから、泊まるのはここにするよ」


「そうか?

 残念だが仕方ないな」


 久しぶりに会った友人たちは、近況を伝えあい、夜が更けていった。

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