第76話 英雄と陰謀(1)


「コルナ、本当にいいの?」


「ええ、ルル。

 きっと族長たちも喜ぶだろうから」 


「でも、私とコリーダは、シローと二人きりだったのに……」


「ふふふ、そんなことを気にしてたの?

 きっと二人きりになるタイミングもあるわよ。

 でも、気にしてくれてありがとう」


 コルナとルルが話しているのは、『神樹戦役』で力を貸してくれた人たちに、聖樹様からのお礼の品を届ける旅行についてだ。

 すでにエルファリアとマスケドニアへの旅は終えているから、後は獣人世界と竜人世界だけだ。

 最初、獣人世界へはコルナだけ連れていく予定だった。

 けれど、それを耳にしたナルとメルが一緒に行きたいと言いだした。それで先ほどの会話になるわけだ。


「コルナ、ナルとメルを頼みますぞ」


 リーヴァスさんが、コルナの頭を撫でている。


「はい、おじい様」


「シロー、向こうでは、コルナと二人だけの時間をとってあげるといいですな」


「はい、そうします」


 俺の返事に、リーヴァスさんは頷いた。

 

「ナル、メル、用意はいいかい?」


 三階にある彼女たちの部屋に続く、パイプ型滑り台に呼びかける。


「「「すぐ行くよー」」」


 ナルの声が滑り台の出口から響いてくる。

  

「「「わーい!」」」


 メルが滑り台から凄い勢いで飛びだしてくる。

 緑苔のクッションが、彼女をパフンと受けとめる。

 続いてナルも降りてきた。


「マンマ、これでいい?」


 ナルが尋ねているのは、彼女が着ている服装のことだ。

 昨日ルルと一緒に準備していたから、動きやすい格好になっている。

 地球で買ったバックパックと水筒、つば広の麦わら帽子をかぶっている。

 ウグイス色の服は七分袖で、首周りに女の子らしいレースの刺繍が入っている。

 膝下までのズボンだ。

 今回は、服の色を揃えてある。


 ルルは二人の前に膝を着き、服装を整えてやっている。


「二人とも、パーパとコー姉の言う事をよく聞くのよ」


「うん、分かってる」

「分かったー」


「じゃ、シロー、コルナ、二人を頼むわよ」


「旅行が終わってすぐで疲れてるから、ルルも無理しないようにね」


「三人のことは任せておいて、ルル」


 コルナは、俺の事までするつもりだな。


「では、みんな、行ってくるよ」


「「「よい風を」」」


 肩にブランを乗せた俺は、以前に比べずっと広くなった中庭に出る。コルナと俺が向かいあい、それぞれがナルとメルと手を繋ぐ。輪になった俺たちは、セルフポータルで獣人世界に転移した。


 ◇


 俺たち四人が現われたのは、ケーナイの郊外、大聖女舞子が住む屋敷から少し離れた草原だ。


「わーい!

 着いたー!」

「こんにちはー!」


 誰も出迎えていないのに、メルが挨拶している。

 俺たち四人は手を繋ぎ、舞子の屋敷まで歩いた。


 ◇


「ようこそ、皆さん。

 お待ちしておりました」


 ドアをノックすると、すぐにピエロッティが顔を出した。

 俺たちは、大きい方の客間に通された。


「姉さん!」


 入るなり、そこにいた狐人コルネが、姉のコルナに抱きつく。

 部屋には、ギルマスのアンデや顔見知りの冒険者たちもいた。


「ミミとポルは?」


「ああ、二人は料理を手伝ってるぞ」


 アンデが説明してくれる。

 きっと、ミミパパとミミママが料理をしているのだろう。

 その時、ドアが開き、舞子とイリーナ、ターニャさんが入ってきた。


 冒険者たちが膝を着こうとしたので、それを舞子が止める。


「今日は堅苦しい場ではありませんから、礼は省いてください。

 それから、もう一人ゲストがいます」


 彼らの後ろから入ってきたのは、猫賢者だった。

 冒険者たちから驚きの声が上がる。


「ナル様、メル様、お久しぶりです。

 シロー殿、コルナ殿も、久しぶりじゃ。ニャニャ」


 杖を手にした彼は、とても元気そうだった。


「賢者様、お久しぶりです。

 お元気そうですね」


 妹から離れ、コルナが挨拶する。


「そうじゃろう。

 この前、コルナ殿を鍛えたじゃろう。

 あれで刺激を受けての。

 久しぶりに自分も修行しておったのじゃ。ニャ」


 確かに、猫賢者は十歳は若返ったように見えた。

 彼は俺に近づいてきた。


「シロー殿、この度は世界群を、そして、我らがグレイル世界を救うていただき、感謝じゃ。ニャ」


「賢者様、コルナから修行の事うかがいました。

 彼女の呪文が無ければ、『神樹戦役』は大変な事になっていたと思います」


「そうかそうか。

 コルナ殿の呪文が役にたったか。ニャニャ」


 猫賢者は目を閉じ、何度も頷いている。


「お姉ちゃん、ホント凄いね!」


 コルネが、また姉に抱きついている。

 この人、獣人会議の議長なのに、姉の事となると甘々だよね。


 その時、メイドが食事の用意ができたことを告げにきたので、皆で食堂に移った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る