第53話 決戦へ(中)


 敵の接近を確認するため、里の上空にばら撒いておいた観測用の点からパレットに、砂煙をあげ近づく、何かの映像が送られてきた。


 敵の到着は、早くとも四日後とみていたから驚いた。

 珍しく点ちゃんの情報が間違っていたのかと思ったのだ。


 しかし、映像に映るものがはっきりしてくると、その可能性は消えた。

 近づいてくるのが、ピンク色の集団、つまりポポの群れだったからだ。


 点ちゃん、ポポちゃんに仲間を呼んでくれって頼んだの?


『(・ω・) 頼んでませんよー。でも、友達が来るって言ってます』  

  

 ふ~ん、じゃあ、連れてきたポポが自分で仲間を呼んだのかな。


「シロー、何か起きたのか?」


 チビの家で歓待を受けているところだったので、急に立ちあがった俺を見て、隣にいた皇女シリルが心配そうな顔をした。

 彼女には敵軍の襲撃についても、まだ詳しいことは話していないんだけどね。


「ポポの群れが、里に近づいているようです」


「敵が操っておるのか?」


「いえ、例のポポが呼んだようです」


 ここのところポポの背に乗ることを覚えたシリルは、すでに彼女と友達になっている。ああ、俺たちと一緒にいるポポが雌だってことは、長老に教えてもらったんだけどね。


「そうか!

 他のポポにも乗ってみたいのう」


 そんなことを言う所をみると、ナルやメルと気が合いそうだな、シリルは。

 

『(*'▽') そのナルちゃんとメルちゃんが来たよー。イオちゃんもいるよー』


 おいおい、点ちゃん、さすがにそれはないだろう。

 彼女たちは、天竜国と竜人国にいるんだよ。

 ここに来るにしても、ポータルを二つ渡らないといけないし、この世界のポータルから『巨人の里』までかなり距離もあるから、いくらなんでもそれは無理でしょ。


『(・ω・)ノ□ はい、映像をどうぞ』


 里長の家は積まれた丸太で作ってあるが、その壁の一面が白くなる。

 そのスクリーンに、さっきパレットで見たポポの群れが写しだされた。

 先頭を走る三匹のポポの上には、確かにナル、メル、イオの姿がある。

 それぞれの前に座っているのは、幼児の姿をした子竜ではないか。


「ど、どういうこと!?」


 俺は慌ててチビの家から走りでると、一人用ボードを出し、それに飛びのった。


 ◇


 前方に山が近づいてきたので、イオは青くなっていた。

 まさかと思うが、このスピードであの山を駆けのぼったりしないよね。

 彼女がそんな心配をしたとき、上空に何かが見えた。


「「パーパ!」」


 ナルとメルが、ポポの足音に負けない大声で叫ぶ。

 上空に見えていた点は、あっという間に大きくなると、足を停めたポポの群れ近くに降りた。

 それは、白銀の点ちゃんボードに乗ったシローだった。


 ナルとメルが、シローに飛びつく。

 イオも飛びつきたかったが、安堵のあまり腰が抜け、動けなくなってしまった。


「イオ!

 君も来たんだね!

 大変だったろう」


 イオは、なぜか涙が止まらなくなった。

 大声を上げて泣くイオを背負うと、シローは大きめのボードを出した。


 彼は、それにナル、メル、イオを乗せ、里に向かった。


 ◇


 俺が里に帰ると、加藤たちはもちろん、里の巨人たちも出迎えてくれた。


里長さとおさ、これが俺の娘、ナルとメルです。

 こちらは、俺の友人でイオです」


「「こんにちはー!」」

「こ、こ、こんにちは」


 ナルとメルは、巨人の前でも物怖じしていないが、さすがにイオは巨人を見上げ怖気づいているようだ。


「シロー殿の娘子とご友人じゃな。

 どうか里でくつろいで下され」


「ご主人様、ボク、友達になりたい」


 チビが目をきらきらさせている。


「いいけど、強く触ったりしたら怪我しちゃうから、気をつけるんだよ」


「分かってる」


 チビは長い間、人族の奴隷商人に使われていたから、その辺の事は心配いらないだろう。 

  

「遊ぼー!」


「「うん、いいよー!」」

「わ、私もいいよ」


 チビは、ナル、メル、イオの三人と森へ行ってしまった。

 シリルが、文字通り指をくわえてそれを見ている。

 さっきまで、ナルに抱かれていたブランが俺の肩に乗る。

 俺の額に肉球を押しつけてくる。


 ナルの記憶が俺の頭に入ってくる。

 なるほど、ナルとメルは、そうやって二つのポータルを渡ってきたのか。

 しかし、これじゃあ、今頃ルルたちや竜人国のギルドは大騒ぎだろう。

  

 今回の事が全て終わったら、二人とはきちんとお話ししないとね。 

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