第41話 大きなるものの国(4)



 里長さとおさのバルクさんに案内され、俺はブランだけを連れ、おばば様に会いに来ている。

 おばば様は、『鎮守ちんじゅもり』に住んでいるということだ。


「ところで、シロー殿、その白い生き物は何ですか?」


「ああ、猫っていう動物なんですよ。

 名前はブラン、俺の友達です」


 ブランは自分の事が話されていると分かるのか、高い声で「ミー」と鳴いた。


「小さいのに、大きな力を感じますな」


 巨人族は、見かけによらず、繊細な精神を持っているようだ。


「ええ、小さいけれど、ブランは特別な力を持っています」  


 そういう会話をしながら、俺たちは集落を抜け、『鎮守の杜』までやってきた。

 神樹の気配が強く漂うその場所は、神聖な雰囲気に満ちていた。

 さすがに神樹様がこれだけ集まると、その気配に触れられそうなほどだ。

 バルクさんは、時々立ちどまり、木々に頭を下げている。


 杜の中に細い道があり、バルクさんは、木々の間を慎重に一歩一歩中に分けいる。

 斜面を少し登ると、やしろのような建物が見えてきた。

 特に大きな神樹様の根元と一体となったその建物は、違和感なく杜の風景に溶けこんでいた。

 

 お社の正面、両開きの扉を前にして、バルクさんは、膝を着き礼をした。俺もそれにならう。

 バルクさんが、静々と前に出、両開きの扉を開く。

 そこには、驚くべき光景があった。


 ◇


 扉の中には、木肌があり、その中ほどにウロのような裂け目がある。

 そこから、巨大な少女が生えていた。

 それは、まさに生えていると言うのがぴったりで、ヘソのすぐ下は、木肌の中に埋まっている。

 目を閉じ、こちらに向いている少女の姿は、彫像のようだったが、生きている者の気配を確かにまとっていた。

 髪を編みあげた少女は、肩の所がつるりと丸くなっており、両腕とも無かった。


「おばば様、シロー殿をお連れしました」


 低い声で短く何かを詠唱した後、バルク老はそう言った。

 俯いていた少女の顔が上がり、こちらを向く。


 少女の目が、ゆっくり開いた。

 その目は、美しく澄んだ琥珀色をしていたが、瞳は無かった。


『シロー、よく来たな』


 空間自体を震わせるような声だった。

 それは、とてもゆっくりしており、今まで聞いた神樹様たちの声と似ていた。

 

「初めまして」

「ミー」


 俺と同時に白猫が挨拶した。


『私の事は、おばばと呼べばよい。

 この度は、里の力になるために来てくれたのだな。

 感謝する』


「やりたくてやっていることですから」


『だが、『共感の神樹』によると、人族とドワーフ族が里を攻めてくるそうではないか』


 恐らく『共感の神樹』とは、普通の木々と交信する力を持つ神樹様のことだろう。


「はい。

 なんとしても、ここを守るつもりです」


 ポータルズ世界群が脆くなっている、今この時、この杜にある神樹様が全て失われた時、何が起こるか。

 それを考えると、背筋に冷たいものが走った。


『できるなら、杜の仲間と里の皆を救うてやってくれ』


「はい、おばば様」


 俺の返事を聞いた少女は、小さく頷くと目を閉じた。

 バルクが後ろから、俺の背中に大きな手を載せる。


「おばば様は、お休みになられました」


 こうして、俺は不思議な巨人族の少女と出会った。

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