第2話 新しい職業


 俺は『くつろぎの家』に家族と仲間を連れてくると、二度目の覚醒について説明することにした。


 女王陛下に許可をもらい、エミリーと翔太も、この場に来ている。

 ルルには、すでにナルとメルが『覚醒真竜』となったことを告げてある。


 皆がリビングのテーブルに座ると、城で起こったことを説明する。


「あー、さっきは突然お城に呼んでごめんね。

 どうしても、あの場で確かめなければならないことがあったんだ」


 並んだ顔をぐるりと見まわす、みな驚いたような顔をしているが、ルルとリーヴァスさんは落ちついていた。城に呼ぶ前、お昼寝中だったナルとメルは、あくびをしている。


「お兄ちゃん、さっき私の体が光ったような気がしたけど」


 コルナが指摘する。


「ああ、さっき水盤が光ったのは覚醒だ」


「でも、シロー、私はすでに子供の頃、覚醒が終わっていますよ」


 コリーダは、とまどった表情だ。


「俺たちは、再覚醒したんだ」


 俺の言葉にポルが首をかしげる。


「再覚醒?」


「ああ、二度目の覚醒にそう名前をつけてみた」


 みんなが驚いた顔になる。さっきまでより驚いてるってどういうことよ。


「お兄ちゃんが、まともな名前をつけたことは置いといて、再覚醒って何?」


 ぐっ、さりげなくコルナに落とされた。


「……今から各自が何に再覚醒したか伝えるからね」


 翔太がキラキラした目でこちらを見ている。


「最初に、二匹の猫、ブランとノワールだけど……」


 自分の名前が呼ばれるのが分かったのか、ナルとメルの膝で二匹の子猫が「ミ~」と鳴いた。


「それぞれ、『夢喰い』と『大喰おおぐらい』になったよ」


「シロー、それはどんなものでしょう?」


「ルル、まだ全く分からないよ。

 これから各自で少しずつ知っていかないとね。

 あと、コリンも『変化者へんげしゃ』に覚醒しているよ」


「シロー、では、私たちの新しい職業クラスについてもお聞かせ願えるかな」


「はい、リーヴァスさん。

 ポルは、『剣士』から『魔剣士』になりました」


 リーヴァスさんが驚いた顔をしたのは、ポルの再覚醒した職業が自分の職業と同じだったからだろう。

 

「ま、『魔剣士』って、あの伝説の!?

 痛っ!」


 ポルが飛びあがり、テーブルに膝をぶつけた。


「ミミは、『料理人』から『軽業師』になりました」


「……なんか、微妙な感じ」


 ミミは喜びきれず、とまどったような顔をしている。


「次は、ルル、コルナ、コリーダ。

 君たち三人は、『竜の巫女』になったよ」


「「「『竜の巫女』?」」」


「ああ、きっと真竜から母親として選ばれたことが影響したんだろう」


「お兄ちゃん。

 じゃ、もう私は『神樹の巫女』じゃなくなったってわけ?」


「いや、コルナ、『神樹の巫女』としての能力はそのまま残っているはずだよ。

 水盤には、二つの文字が浮かんでいたからね」


「そうなんだ」


「次は、翔太だけど、君は『魔術師』から『大魔術師』になったよ」


「わーい!」


 翔太は、それが何か分からなくても純粋に喜んでいる。    


『(・ω・) ご主人様も、彼を見習ってください!』    


 へいへい。


『d(・ω・) 返事は「はい」一回』


 はい……。


「さて、次は、エミリーだけど、君は『聖樹の巫女』に再覚醒したよ」


「えっ?」


 エミリーの可愛い口が「O」の字に開く。


「水盤には、『聖樹の巫女』という文字が二つ並んでいたから、同じ職業でも、おそらく一つ上のクラスになったんだろう」


 翔太が、彼女の隣で拍手している。みなもそれに誘われ拍手した。


「それから、今回地球から来たイリーナは、『聖女』になったよ」


「「「おおーっ!」」」


 みんなの歓声に、イリーナは恥ずかしそうにうつむいた。となりのターニャさんが、誇らしげに胸を張っている。


「最後に、リーヴァスさんは『魔剣士』から『守護者』となりました」


 みんなが拍手する。

 自分の新しい職業がリーヴァスさんのものと同じだと分かったからだろう、ポルは感極まり涙ぐんでいる。


「で、リーダーは何になったの?」


「ミミ、それはおいといて。

 新しい職業クラスがどんなものなのか、これから各自確認しておいてね。

 いつ何が起こってもいいように」


「ねえ、リーダー……」


 ミミが再び尋ねようとするが、ルルの言葉がそれを止めた。


「では、みなさん。

 今日は再覚醒のお祝いにカラス亭に行きましょうか」


「やった!」


 以前、カラス亭で食事したことがあり、その美味しさを知っているポルが満面の笑みを浮かべている。


「わーい、カラスだー!」


 食いしん坊のメルが盛りあがる。


 それで、ミミが尋ねようとした俺の職業は、うやむやになった。

 すでにルルだけには話しているから、近く、他の家族にも話さなくてはならないだろう。


 ハートンが目にし、動けなくなるほど驚いた俺の職業は『英雄』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る