第37話 地球世界の神樹4 ― 南アメリカ ―



 ニューヨーク、スタテンアイランドにあるハーディ邸で目を覚ました俺は、敷地内にある森で朝の散歩をする。

 リスなどの小動物が沢山顔を出し、とても楽しい散歩だった。


 屋敷に帰ると、翔太が庭で魔術の練習をしていた。

 彼は可能な限り、毎日魔術の練習をしている。

 ピエロッティ先生との約束だそうだ。


 素人の俺から見ても、翔太の魔術は凄かった。

 周りに森や建物があるから火魔術は使わないが、水、土、風、全てにおいて俺が今まで見たどの魔術師より優れている。

 旅行中ハーディ卿が手を切ったことがあったが、彼が治癒魔術であっという間に治してしまった。

 これでまだ十二歳だから、末恐ろしい才能だ。


 エミリー、翔太、俺が揃った朝食の席に着くと、ハーディ卿が話しはじめた。


「シローさん、私を旅行に連れていってくれてありがとう。

 今だから言いますが、私は娘が『聖樹の巫女』になったと聞き、あなたを恨んだこともありました。

 娘の目を治してくれた恩も忘れてです。

 今回の旅行で娘の姿を見ていて、彼女のお役目がどんなに大切なものか、そして、あなたとショータが娘をどれだけ大切にしているか、それが分かりました。

 どうか、娘の事をよろしくお願いします。

 死んだ家内が今の彼女を見れば、きっと誇りに思うに違いありません」


「俺たちは、もうエミリーを他人だとは思っていませんよ。

 彼女は、翔太と俺が何としても守ります」


 翔太もハーディ卿の方を見て、力強く頷いている。

 そんな翔太を見たエミリーが、赤くなっている。


「シローさん、この後、南米にも行くのですよね」


「ええ、南米を北から南へ調べていく予定です。


「私はその旅にはついて行きません」


「ハーディさん、なぜですか?」


「娘がこれだけの事をしているのです。

 私は自分ができることで娘を応援したいと思います」


「あなたが一緒でも、俺たちには何の負担もありませんよ」

 

「そうおっしゃってくださるのはありがたいですが、もう決めたことです」


 ハーディ卿は微笑んでいた。


「エミリー、頑張ってくるんだよ。

 パパも頑張るからね」


 せかっくだから、異世界に連れていく研究者の人選を彼に頼むことにした。

 アリストの研究所、マスケドニアの研究所、学園都市の研究所にそれぞれ二名ずつだ。

 ある理由から、派遣するメンバーの半数は二十五歳以下にしてもらった。

 研究所はそのうち、エルファリアとグレイルにも作るつもりだが、そちらへ送る研究者は後回しでいいだろう。


「分かりました。

 魔術研究所、錬金術研究所、科学研究所、各二名、合計六名。

 地球最高の知力を集めますよ」


「よろしくお願いします。

 では、俺と翔太は自室で少しくつろぎますので、エミリーの用意ができたら呼んでください」


 エミリーには、お父さんに甘える時間をあげないとね。


「お気遣いありがとうございます。

 では、後ほど」


 俺と翔太は、出発に備え準備を始めるのだった。


 ◇


 エミリー、翔太、俺の三人は、ハーディ邸をたち、点ちゃん1号で南米に向かう。


 途中ニカラグアのジャングルで一柱の神樹様を治療をすると、更に南に下る。


 広大なアマゾンのジャングルには、三柱の神樹様がいた。

 そのうち一柱の神樹様がある森は、消滅寸前だった。

 大規模な焼き畑が、目の前まで迫っていたのだ。

 俺はすぐにブラジル大統領に電話を入れた。


「大統領、シローです」


「ああ、お久しぶりです。

 何のご用でしょう」


 俺は自分がどこにいるかを告げ、焼き畑を中止してもらうように頼んだ。


「うーん、そうですね。

 できる限りやってみましょう」


 ところが、何時間待っても、大統領から返事が来ない。

 その間にも、焼き畑は広がっていく。


 痺れを切らした俺は、大統領執務室に直接現れた。

 エミリーと翔太は、一旦、ハーディ邸に帰してある。


 ブラジル大統領は、机に肘をつき頭を抱えていた。


「お返事が無いから、直接うかがいました」


「シ、シローさん!

 いったいどうやって!? 

 すみません。

 待たせてしまって」


「一体、どうしました?」


「それが、あそこの焼き畑を手掛けている会社は、麻薬王の息が掛かっていまして、我々にも手が出せないのです」


「なるほど」


「どうか、このことで『枯れクズ』を売らないなどと言わないでください」


 自分たちの要求だけ通そうというのは、虫がいい話だ。


「それは、とりあえず保留にしておきましょう。

 麻薬王にどうして手が出せないか、具体的な理由を教えてください」


 大統領は、政府高官の中にも麻薬王と関係がある者がいること、麻薬王の関係者が警察はもちろん、 裁判所にもいて、たとえ裁判に掛けられても逃げおおせることを教えてくれた。


「ああ、そんなことですか」


「そんなことっていっても、どうすることもできませんよ」


「詳しいことは話せませんが、あの地域の森を保全することに、地球の存亡が掛かっているんです。

 この件は、俺に任せてもらえますか?」


「え、ええ、それはもちろんです」


「麻薬王とその一味は、消しても構いませんね」


「もし可能なら、それをお願いしたい」


 点ちゃん、久々に忙しくなりそうだよ。ブランにもそう伝えておいてね。


『(^▽^) わーい、分かったー!』


 こうして、俺、白猫ブラン、点ちゃんの神樹様救出作戦が始まった。

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