第28話 異世界科(上)



 俺たち一行は、林先生と約束していた時刻よりかなり早く学校に着いた。

 それにもかかわらず、校門の所には「ようこそ、母校へ シロー様」と書かれた紙を掲げる少女と少年がすでに立っていた。


「こんにちは、シロー先輩ですね?」


「ああ、そうだけど」


「私、白神と言います。

 兄がお世話になっています」


「あれ? 

 君、白神の妹さんか。

 こちらこそ、お兄さんには、『ポンポコ商会』がお世話になっています」


「こんにちは。

 ボクは、小西です」


「もしかして――」


「はい、小西の弟です。

 姉が、お世話になっています」


 そういえば、白神、小西のペアを、アメリカに招待したことがあったな。


「君たち、授業はいいの?」


「私たち、異世界科に入ったんです。

 お出迎えも、りっぱな授業なんですよ」


 二人は目を輝かせ、ミミとポルを見ている。

 まあ、耳や尻尾しっぽがあると、分かりやすいからね。


「じゃ、時間が来るまで、校内を案内してもらえるかな」


「分かりました。

 どうぞ、こちらに」


 ◇


 仲間にとって、白神さん、小西君の学校案内は、とても刺激的だったようだ。

 運動場を紹介するだけで皆の歓声が上がるから、案内役にとっては楽なお客さんだろう。


 体育館では、皆がバスケットに興味を持った。

 壁から底が無い網のようなものが突きだしているから、不思議に思うのは当然かもしれない。


 小西君がボールを投げ、バスケットを通過させる。


「こうやって競う、バスケットボールという競技です」


 フリースローラインから、みんながボールを投げてみる。

 ナルとメルには、投げさせない。

 彼女たちが投げると、何かを壊しそうだからね。


 一番上手かったのはコルナで、試しに続けて投げてもらったが、二十本中、外したのは一本だけだった。

 初めてでこれだ。

 練習などしたら、恐ろしいことになるな。


 ナルとメルがぐずったので、運動場で幅跳びに挑戦させる。

 二人が無茶をしたら加藤以上の事が起こるだろうから、砂場に小山を作り、それを狙って飛ぶ競技に代えた。


「マンマ、パーパ、見ててねー!」


「メル、白神さんの横でジャンプして、砂場に作った山を狙うんだよ」


「分かったー」


 小西君が、メルをスタートラインに連れていく。


「はい、走ってね」


「うん!」 


 メルが弾丸のように飛びだした。

 子供は、加減が分からないからね。

 彼女は一瞬でジャンプする位置まで走ると、ポーンと飛びあがった。

 その姿が、ちょうど天頂近くにある、お日様の光に入り見えなくなる。


 ゆっくり十秒数えおえた時、メルが、もの凄い勢いで落ちてきた。

 砂場に作った小山に命中する。


 バシャーッ


 着地の衝撃で、砂場の砂が外に吹きとばされてしまった。

 白神さんと小西君は、口をあんぐりあけている。

 点ちゃんに頼んで、砂だらけになったメルから砂を取りのぞき、外に飛んだ砂を元に戻しておいた。


「ど、どうなってるんですか、これ?」


 小西君が呆然としている。

 メルは、キャッキャと笑っている。


 ナルも幅跳びをしたかったようだが、また砂を元に戻すのも面倒臭いので、ボール投げにしてもらう。

 ボールは、運動場の隅に転がっていた古いテニスボールを使う。


「ナル、いいかい。

 あの方向に投げてね」


 俺は、近くにある山の頂上を指さした。


「お山のてっぺんを狙うんだね!」


「そうだよ」


 ナルは、なぜか運動場の中央まで行くと、俺たちの方へ走ってくる。

 そういえば、メルは助走してたもんね。


 一瞬で走りおえたナルが、ボールを放った。

 古いテニスボールは、もの凄い勢いで空中に飛びだすと、煙を引きながら飛んでいく。

 ボールは、なぜか火が着き、そのまま燃えつきた。


「わーい! 

 面白い!」


 ナルは喜んだが、案内役の二人は、顔色が青くなっている。

 約束の時間が来たので、俺たちは校舎に入った。


 ◇


 白神さん、小西君の二人が俺たちを連れてきたのは、かつて視聴覚教室として使われていた場所だった。

 ドアの上には、『異世界科』という、やけに立派な金属板のプレートが貼られている。

 小西君がドアをノックする。


「おう、入ってこい」


 懐かしい、林先生の声がした


「失礼します」


 小西君は、律義にも声を掛けてからドアを開ける。


 教室は、普通の教室二つ分くらいあり、明らかに改装されていた。

 生徒がズラリと座っており、壁際には先生たちが並んでいた。

 教壇には林先生が立っており、黒板の横には校長と教頭が座っている。


 白神さんの誘導で、俺たちは黒板前に並んだ。

 エミリーとハーディ卿は、教室の後ろに並べてある椅子に座った。


「お前らの先輩、そして異世界で冒険者をしているシローだ。

 こんなチャンスは、めったにないぞ。

 今日は、色々教えてもらえよ。

 シロー、紹介を頼む」


 先生が『坊野』から『シロー』と呼び方を変えてくれていて、俺は嬉しかった。


「紹介にありました、シローです。

 先生方、お久しぶりです。

 そして、異世界に転移した時には、大変なご心配をおかけしました。

 誠に、申しわけありませんでした」


 教室の三辺をぐるりと取りかこんだ先生たちが、頷いている。

 中には、目頭を押さえている先生もいる。


「今日は、林先生の異世界科授業に招かれて、光栄に思います。

 私の家族と友人を紹介します」


 俺は、家族の方に手を広げた。


「まず、こちらは、俺たちが困ったときに相談する方であり、心の支えでもあるリーヴァスさんです」


「リーヴァスです。

 皆さん、初めまして。

 私は、パンゲア世界のアリスト王国で、冒険者をしております。

 このシローがリーダーをしているパーティ『ポンポコリン』の一員でもあります」


 女子生徒たちがうっとりした目で、リーヴァスさんを見ている。

 男子生徒は、憧れの目で見てるね。


「こちら、俺たちが住んでいる家を管理しているルルです。

 後で紹介するナルとメルの母親でもあります」


「ルルです。

 初めまして。

 シローが住んでいた世界に来られて、とても嬉しく思います。

 私は、この世界にとても興味があります。

 ぜひ、いろいろ教えてください」


 男子生徒が、目をキラキラさせている。

 ちょっと怖いよ、君たち。


「次は、コルナです。

 我が家では、ナルとメルのお姉さん役といったところです」


「紹介を受けました、コルナです。

 私は、グレイル世界の狐人領から来ました」


 クラスの一部から、歓声が上がる。

 耳や尻尾しっぽに興奮する生徒だな。


「次、コリーダです。

 素晴らしい才能の持ち主です。

 みなさんも、後でそれが分かるでしょう」


「初めまして、コリーダです。

 エルファリアという世界から来ました。

 もうお分かりの方もいるでしょうが、エルフです」


 コリーダの優雅な礼を目にした男子生徒が、呆けた顔になっている。

 なぜか、机に伏せている者もいる。


「次は、ポルナレフ。

 俺の友人であり、パーティのメンバーです」


「こんにちは。

 ボクのことは、ポルと呼んでください。

 グレイル世界のケーナイという町から来ました」


 また、一部の者が騒ぐ。


「次は、ミミ。

 彼女も、友人でパーティメンバーです」


「こんにちはー。

 パーティ『ポンポコリン』のミミだよ。

 みんな仲良くしてニャ」


 クラス全体が湧く。いつも遣わない猫言葉を遣い、彼女は何がしたいのだろう。


「さて、実は、姿を隠している仲間がいます。

 今から紹介しますね。

 白猫ブラン、黒猫ノワール、猪っ子コリンです」


 三匹が急に姿を現したので、一部の生徒から悲鳴が上がる。


「お前たち、静かにしろ!

 これは、シローの魔法だ」


 林先生が、生徒を落ちつかせる。


「最後に、俺たちの宝物、ナルとメルです」


「ナルです。

 こんにちはー!」

「こんにちはー!」


「「「可愛いー!」」」


 生徒たちの声が揃う。


「よし、紹介が終わったから、次は質疑応答でいくかな」


 林先生の合図で、異世界科の授業が始まった。

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