第20話 女王陛下への報告


 俺たち一行は、点ちゃん2号でマスケドニア国から、アリスト国へと向かった。


 加藤の両親とヒロ姉は疲れていたのだろう、最後尾の座席でぐっすり寝っている。


 エミリーと翔太は、一番前の席、つまり俺の隣で景色をずっと眺めている。

 民家のたたずまいや植生も地球とは異なる景色が、何から何まで珍しいのだろう。

 途中、森を通るとき、豚のような小さな魔獣が道を横切ると、二人とも歓声を上げていた。


 ジョイとステファンは、マスケドニアで仕入れた知識について、議論を交わしている。


 ハピィフェローは、マスケドニア王宮の話で盛りあがっていた。

 冒険者が、王宮の中に入るのは珍しいことだからね。

 彼らがギルドに帰ったら、冒険者たちから話をせがまれるに違いない。


 俺たちは、半日もかからずアリスト国に着いた。

 まずは、お城へ向かう。

 ハピィフェローへが請けおった依頼は、アリスト王城までエミリーと翔太、加藤の家族を護衛するというものだからね。

 

 城に着くと、『王の間』に通される。

 玉座には美しい女王陛下が座り、手前には貴族たちが並んでいた。

 ハピィフェローは、慣れない光景に戸惑っている。

 エミリーと翔太は、騎士に連れられ、玉座の横に立った。


 残された俺たちは、玉座の前にひざまずく。

 頭上から、よく通る畑山さんの声がした。


「皆のもの、ご苦労であった。

 博子さん、マスケドニア国名誉子爵となられたそうで、おめでとう。

 今日は、ゆるりとくつろがれよ。

 ハピィフェローと言ったか、お主らも護衛、感謝するぞ」


「は、は、は、はい。

 光栄でごじゃいます」


 ブレットは、相変わらずだな。

 しかし、いくら緊張しているからといって、「ごじゃいます」はないだろう。


 冒険者にとり、一国の王から感謝されるなど、まず無いことだ。

 彼らには、いい経験になるだろう。


「後ほど褒美をつかわすぞ」


 俺、加藤の両親、ヒロ姉、ハピィフェローの面々は、部屋から退出する。

 ブレットたちは、これからギルドへ報告に向かうはずだ。


「ブレット、キャロやフィロさんによろしくね」


「ああ、お前は、ギルドに寄らないのか?」


「今回は、急ぐからね」


「じゃ、また近いうちに寄れよ」


「ああ、一月ひとつきは向こうにいるけど、帰ってきたら必ず行くよ」


「あなたの世界に帰るなら、あの板のような甘いお菓子、お願いね」

「私も私も」


 ハピィフェローの女性二人は、異世界の味、チョコレートに心を掴まれたようだ。


「分かったよ。

 ちゃんと用意しておくから」


 その後、侍従の案内で、加藤の両親、ヒロ姉は、迎賓館へ向かったが、俺はみんなに断り、城内の森にある噴水近くに瞬間移動した。


 ◇


 噴水横での会見は、あらかじめ念話で畑山さんに申しこんでおいた。


 テーブルと椅子を出し、お茶の用意をしていると、木立から、畑山さん、レダーマン、ハートンが姿を現した。

 四人で丸テーブルの周りに座る。


「ボー、おかえり。

 内々の話って何?」


 俺は、まず蜂蜜クッキーとお茶を勧める。

 ついでに、蜂蜜のビンを三つ出しておいた。


「うわっ! 

 これ、地球で食べた蜂蜜ね? 

 やった!」


「陛下、お言葉遣いが……」


「レダーマン、ここは無礼講の場よ。

 気にしないの」


 皆がお茶を飲みおえるのを待ち、話しはじめる。


「話というのは、エミリーの『聖樹の巫女』という称号と、聖樹様からのお話についてだよ」


「えっ! 

 そんな大変な話だったの?」


「とにかく、話を聞いてくれるかな」


 俺は、『聖樹の巫女』が、世界に危機が訪れた時に現れること、そして、それは、神樹様の数が減ったことが原因だと話した。


「せ、世界の危機って、どういうこと?」


「畑山さん、俺の予想でいいなら話せるけど、聞いたことは全て秘密厳守でお願いするよ」


 畑山さんが、レダーマンとハートンと顔を見あわせ頷いた。


「いいわよ」


「俺が予想している危機というのは、ポータルズ世界群の消滅だ」


 「……」

 「……」

 「……」


 さすがに、三人とも言葉が出ないようだ。


「世界を危機から救うカギとなるのがエミリーの力だ」


 俺は、エミリーが学園都市世界で見せた力の事を彼らに話した。


「なるほどね。

 エミリーは、神樹様の力を強めたり、治癒する力があるのね」


 さすが、『初めの四人』の指令塔だ。畑山さんは、呑みこみが早い。


「あんたが、『枯れクズ』を調べるために魔術研究所の建設を頼んできたのは、そういう理由だったのね」


「ああ、そうだよ。

 恐らく、神樹様が聖樹様の力と関わっているように、普通の木々も、神樹様、聖樹様と関りがある。

 この素材を研究すれば、エネルギーとして木を伐採する必要が無くなるはずだ」


「地球であんたから聞いた、例のものね?」


 畑山さんの言葉に頷き、『枯れクズ』をテーブルの上にコトリと置く。


「科学からの研究は学園都市と地球世界、錬金術からの研究はマスケドニアが受けもつから、アリストには、魔術方面からのアプローチを頼みたい」


 畑山さんは、しばらく目を閉じ考えていた。

 目を開くと、しっかりした声で言った。


「急ぐわね」


「そうだね。

 ゆっくりはしていられない」


「どうせあんたの事だから、何か考えているんでしょ」


「ああ、場所だけ言ってくれたら、建物は俺の魔術で建てるから」


「分かったわ。

 魔術研究所に関して、レダーマンは場所の選定、ハートンは研究者の人選、すぐ動くわよ」


 彼女はそう言うと、立ちあがった。


「あんたは、これから加藤と舞子の家族を、地球に送っていくんでしょ?」


「ああ、一旦エミリーも連れていくよ。

 後ね、聖樹様によると、翔太は『聖樹の巫女』の『守り手』らしいんだ」


「なんですって!」


「それから、ハートンさん、ヴォーモーンっていう魔術師のこと知ってるよね?」


「もちろんです。

 ポータルズ世界群、史上最大の魔術師です」


「翔太は、彼と同じ才能があるらしい」


「なんとっ!!」


「魔術の専門家は、彼をきちんとした魔術学校に通わせるのを勧めていたよ」


「も、もし、それが本当なら、きちんと学校で学ばないと危険ですな」


「ボー、危険ってどういうこと?」


「ちょっとしたことで、魔術が暴発する可能性があるってこと」


「ちょ、ちょっと、それ大変じゃない!」


「だから、学校で、魔術を学ぶ必要があるんだ。

 すでに、水、土、風、火の属性魔術については、その基本をマスターさせてある」


「ええっ! 

 いつの間に……」


 ハートンが驚く。


「獣人世界で、先生についてもらった」


「短期間で、それをマスターしているとなると、恐らくヴォーモーンの再来です」


「翔太は、マナが見えるそうだよ」


「えっ! 

 それは、もう間違いありません。

 陛下、プリンスをすぐにでも魔術学園へ!」


「ああ、ハートンさん、ちょっと待ってね。

 俺は、彼を一度地球に連れかえるつもりだよ。

 陛下のお父上、つまり、翔太のお父さんからもご意見をうかがわないといけないしね」


「し、しかし、その間に魔術が暴走したら……」


「安心して。

 俺が、責任を持つから」


「そ、そうですか」


 ハートンは、まだ何か言いたそうだったが、畑山さんの声がそれをさえぎった。


「ボー、頼むわよ。

 まずは、予定通り、翔太を地球に帰して」


「ああ、分かってる」


「では、解散。

 みんな、すぐに動いて。

 ハートンは、魔術師の人選が終わったら、魔術学園への連絡をお願い」


「ははっ」


「レダーマンは、研究所用地の選定を」


「はっ」


「ボーは、すぐに家族の元に帰ってあげて。

 用地が決まれば、研究所建設で忙しくなるだろうから」


「分かった。

 じゃ、またね」


 俺は、自分の家へ瞬間移動した。

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