第19話 カトー研究所
マスケドニアにおける『枯れクズ』研究所の場所は、『英雄の丘』近くの丘陵地帯と決まった。
『英雄の丘』というのは、かつて加藤の恋人ミツさんが擬装で埋葬された場所で、マスケドニアの英雄たちが眠る墓地だ。
この一帯は、国の許可証がないと入れない特別区となっているため、今回の目的にはちょうどいい。
俺は傾斜地を利用し、地面に埋めこまれたような研究所を造った。
丘の斜面に窓が開いており、そこから奥に建物が広がっている。
建物奥の照明には、『枯れクズ』を利用した。
この研究所は、陛下の意向で、『カトー研究所』と名づけられ、落成式には加藤とその両親、ヒロ姉も出席した。
落成式が終わるとすぐに、俺はアリストへ向かう準備を始めた。
滞在中、王宮錬金術師たちと『枯れクズ』研究に没頭していた、学園都市の研究者ジョイとステファンは、すごく残念そうだった。
次は、このパンゲア世界へも、学園都市から研究者を送ってもらおう。
エミリーと翔太は、滞在中、加藤の家族といっしょにあちこち見てまわったようだ。
もちろん、ハピィフェローの護衛つきだ。
俺と一緒だと、そういった観光をすることが少ないので、二人ともすごく喜んでいた。
加藤の家族で、ヒロ姉だけは別行動だった。
彼女は、なぜか陛下とショーカに気に入られたようで、事あるごとに連れまわされていた。
そして、驚いたことに地球世界の情報と引きかえに、名誉子爵号までもらっていた。
出発の前に、国王とショーカがヒロ姉に何か耳打ちし、彼女が赤くなるという場面があった。
俺は、陛下に許可をもらい、バス型の点ちゃん2号を王宮前に出した。
「母ちゃん、父ちゃん、体に気をつけてな」
加藤は、この国に残るので、両親に別れを告げる。
「ああ、あんたも王様や軍師様にご迷惑かけるんじゃないよ」
おばさんは、にこやかな顔でそう言った。
おじさんは、加藤の顔をじっと見て頷いているだけだ。
加藤と並んで立っているミツさんが俺に声を掛ける。
「リーダー、お酒と緑苔ありがとうございます。
次はエルファリアのお茶とドラゴニアの蜂蜜を多めにお願いします」
しっかりもののミツさんは、お別れの挨拶まで業務連絡だ。
「分かってますよ。
お酒は王宮の注文を優先してあげてね」
エミリーと翔太が加藤に挨拶している。
「加藤さん、いろんなところに連れていってくれてありがとう」
「加藤兄ちゃん、また来るねー」
「ああ、二人とも元気でな。
地球まで、ウチの両親と姉ちゃんを頼むよ」
俺が、2号に乗りこもうとすると、加藤に腕を引っぱられる。
彼は、俺を少し離れた所に連れていくと耳元でささやいた。
「おい、世界群の命運が懸かってるんだ。
エミリーと翔太君を頼むぞ」
彼らしくない真剣な表情だ。
「ああ、まあ、できるだけやってみるよ」
「ははは、ボーは、世界の危機でも変わんないよな」
変えようと思っても変えられないんだけどね。
「じゃ、『ポンポコ商会』の支店のこと頼むぞ。
アリストに何かあったら向こうも助けてやってくれ」
「ああ、麗子さんもいるからな」
加藤は、赤くなる。
俺たちは、手をパンと合わせ、別れの挨拶にかえた。
点ちゃん2号は、陛下、軍師を始め、マスケドニア国貴族たちが見守る中、アリストへ向け出発した。
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