第4部 ポータルズ世界群の危機

第13話 キャロの里帰り(上)


 ルル、コルナ、コリーダに笑顔が戻ったので、俺はエルファリア行きの準備を始めた。


 今回の旅行は、アリスト(パンゲア)を出発して、ケーナイ(グレイル)、聖樹の島(エルファリア)、学園都市(アルカデミア)、マスケドニア(パンゲア)と回り、最後にアリストに帰ってくるというものになる。


 いくら世界間は、セルフポータル、世界内では瞬間移動が使えるとはいえ、気候も風土も違う土地をこれだけ巡るのだから、服装を始め、いろいろなモノを準備しなければならない。


 それに加え、各地の友人知人へのお土産が加わるのだから、整理が大変だ。

 こんなことになるんだったら、地球でお土産を買った時に、その場で点収納にタグをつけておくんだった。

 例えば、「お土産 アマンダさん」としておけば良かったのだ。

 相変わらずの、うっかりだね。


 その上、予定が少し早まるような情報がキャロからもたらされた。


『シロー、聞こえる』


『ああ、キャロ、どうした?』


『ケーナイギルドからの連絡で、予定より少し早めに来てほしいということなの』


『どういう用件だった?』


『コルネさんが大切な話があるからということだったわ。

 彼女は二三日で、ケーナイに着くそうよ』


 そうか。彼女は、『聖樹の巫女』について、神樹様におうかがいを立てるため、狐人領に帰っていたからね。 

 神樹様から何かお告げを受けたのだろう。


『分かった。

 だけど、俺が出発を早めるということは、君とフィロさんの出発も早まるということだけど、それは大丈夫かい?』


『ええ、コルネさんから連絡が来てすぐに、マックさんに頼んであるわ』


 それなら大丈夫だろう。


『では、二日後の朝、ギルドに迎えに行くから』


『助かるわ。

 じゃ、お願いね』


 コルネが受けたであろう、神樹様からのお告げについて、思いを巡らせながら念話を切った。


 ◇


 二日後の朝、俺は家族に声を掛けてから、アリストギルド前に瞬間移動した。

 そこでは、すでにキャロとフィロさんが、それぞれ大きな荷物を用意し、待っていた。

 彼らの荷物を点収納に入れる。

 俺たち三人は、ギルドの個室に入ると、そこから鉱山都市のポータル前に瞬間移動し、ポータルを渡った。

 ケーナイにある舞子の屋敷に着く。

 こちらは、昼も遅い時刻だった。


 来客用の大部屋で待っていると、部屋の外から聞きなれた足音がして舞子が入ってくる。


「史郎君!」


 舞子が抱きついてくる。


「あー、舞子、こちらアリストのギルドマスター、キャロさん。

 それから、そのお父さんのフィロさんだよ」


 他にも人がいたと気づき、舞子がぱっと俺から離れる。


「あ、キャロさん、お久しぶりです。

 フィロさん、舞子と言います。

 初めまして」


「お久しぶりです、聖女様」

「初めまして」


 俺たちが、ソファーに座ると、すかさず犬耳メイドさんが、お茶を持ってくる。

 さすが聖女つきのメイドだ。


 お茶を少し飲んだところで、ノックの音がして、ピエロッティが入ってきた。

 後ろには、翔太とエミリーを連れている。

 白猫ブランは、俺の肩から降りると、ささっと翔太の胸に跳びついた。


「ピエロッティさん、こんにちは。 

 翔太に魔術を教えていただきありがとうございます」


「とんでもないです。

 ショータは素晴らしい生徒ですよ」


 先生から褒められ、翔太の顔がぱっと輝く。


「シローさん、ボクの魔術見てくれるでしょ?」


「ああ、ぜひ見てみたいね」


 翔太がニコニコしている。


「エミリー、君も元気にしてたかい?」


「はい。

 でも、舞子お姉ちゃんから治癒魔術を教えてもらっても、全然できませんでした」


 エミリーは、元気が無い。

 彼女は、さっそく舞子に抱きついて慰めてもらっている。

 俺は、彼女がなぜ治癒魔術が使えないか、その理由について、なんとなく考えていることがあった。


「史郎君、今回はゆっくり滞在できるの?」


「いや、明日には、エルファリアに発つつもりなんだ」


「ええっ! 

 明日……」


「コルネが来ていないからはっきりしたことは言えないけど、たぶんそうなると思うよ。

 今回は、翔太とエミリーも連れていくつもりだよ」


「えっ? 

 私も?」


 エミリーが驚くのも無理はない。

 エルファリアなど、一度も聞いたことが無いのだから。


「うん、多分。

 コルネという人が来たらはっきりするだろう」


 そこで、ピエロッティが声を掛けてくる。


「シローさん」


「何でしょう」


「この後、ショータの事でおりいってご相談があります」


「分かりました」


 気を利かせたのだろう。舞子は、翔太、エミリー、キャロ、フィロさんを連れ、部屋から出ていった。


 ◇


「ピエロッティさん、翔太の事でお話とは?」


 ピエロッティは、肩に下げたカバンから、占いで使う水晶球を思わせる透明な球を取りだした。

 彼が呪文を唱えると、それに文字が浮かびあがる。


「この数値を見てください」


 大きな数字の横に、小さな数字が並んでいる。

 ピエロッティは、一番上にある数字を指さした。


「これがレベルで、その横にある数字が、レベル内での獲得経験値です。

 ショータ君が私と訓練を始める前、経験値はこうなっていました」


 ピエロッティは、かなり長い数字をすらすらと口にした。

 さすが魔術の専門家だ。

 その数字は、目の前の数字とほとんど変わりが無かった。


「翔太は、あまり魔術が上達していないということですか?」


「いいえ。

 彼の上達には、目を見張るものがあります。

 問題は、経験値が獲得しにくいというところにあります」


「どういう問題なのでしょう?」


「かつて、ショータと同じような経験値獲得を示した魔術師がいました。

 彼の名前はヴォーモーン。

 ポータルズ世界群、歴史上最大の魔術師です」


 なんか、話が大きくなってきたな。

 ピエロッティは、話を続けた。


「特に、二つ以上の魔術を組み合わせる複合魔術は、彼だけにしか使えませんでした」


 複合魔術? どこかで聞いたことがあるぞ。


「今では魔術の研究が進み、複数の魔術師が詠唱を組みあわせることで、疑似的に複合魔術を唱えられることが知られています」


 複数の魔術師が詠唱? 聞いたこと、見たことがあるぞ。


「ピエロッティさん、ひょっとして『メテオ』という魔術をご存知ですか?」


「もちろんです。

 その『メテオ』こそ、ヴォーモーンが作った最大の攻撃魔術です」


「しかし、彼は、どうやってそんなものを開発できたのですか?」


「ヴォーモーンは、マナ、つまり魔術のもとが見えたと言われています。

 その特質を利用して複合魔術を生みだしたようです。

 さきほどの、『メテオ』にしても、彼は単独で唱えることができたそうです」


 あの魔術を単独で! とんでもないな。


「今日お話ししたかったのは、ショータが誤ってそういった魔術を暴走させないように、魔術学園できちんと教育を受けるようにお勧めすることでした」


「ピエロッティさんが教えてもいいと思うのですが、何か問題でも?」


「基礎はともかく、私の魔術は攻撃系に特化しています。

 ですから、よけいに危ないでしょう」


 なるほど、広範な魔術知識により、暴走を防ごうというんだな。


「お話は分かりました。

 翔太とも相談したうえ、先生からアドバイスしていただいた方向で考えたいと思います」


「ショータは、唯一無二の生徒です。

 どうかよろしくお願いいたします」


「とんでもないです。

 彼の事を心配していただき、本当にありがとうございます」


 俺は、翔太のこれからのことに、あれこれ考えをめぐらすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る