第5話 勇者の帰還


 水盤の儀が終わり、舞子、加藤、加藤夫妻、渡辺夫妻、翔太君、ヒロ姉、エミリーそれに俺は、迎賓館二階にある、続き部屋に来ていた。


 ここは、かつて『初めの四人』が異世界に来た時、最初に宿泊した場所でもあるし、俺とルルが初めて出会った場所でもある。

 昨夜、異世界から来た家族とエミリーは、ここに泊まった。


「ボー、エミリーちゃんは、なんで覚醒もしないで、『聖樹の巫女』になったんだ?」


「いや、加藤。

 俺たちは、彼女が覚醒するところを見てる」


「えっ? 

 史郎君、それっていつ?」


「ほら、舞子、君がエミリーの目を治療したときだよ」


「えっ? 

 私、気づかなかったよ」


「あの時、エミリーの体が光ってたんだ。

 俺は、てっきり舞子が彼女の全身に治癒魔術を掛けたと思ったんだが……」


「ああ、あん時か。 

 確かにエミリーちゃん、光ってたな」


「舞子、エミリーは、どこか悪いところがあるの?」


「お母さん、それは心配しなくていいよ。

 今、私たちが話しているのは、彼女が覚醒した職業の事だから?」


「職業っていっても、エミリーはまだ十二だろう」


「ああ、おじさん、地球で言う職業とはちょっと違うんですよ」


 俺は、加藤夫妻、渡辺夫妻に、異世界における職業の話をした。


「ウチの雄一が勇者だって、あれかい?」


「そうです。 

 博子さんは、畑山さんと同じ『聖騎士』っていう職になりました」


「史郎君、我々は、どうしてその覚醒とかいうのをしなかったのかね?」


 がっかりした顔で渡辺のおじさんが尋ねる。

 おじさん、もしかして魔術とかつかってみたかったのかな?


「それが、年齢がある程度以上になると、覚醒しなくなることが知られているんです。

 それが分かっていて、みなさんが水盤の儀を受けたのは、異世界人だともしかして、と思われたからでしょう」


「そうか。

 ウチの舞子も、あれで聖女になったんだね?」


「はい、そうです。

 そのときは、もう周囲が大騒ぎでしたよ」


「ウチの雄一もかい?」


「ええ、おばさん。

 彼は勇者になりましたから、それは国を挙げてのお祭りがありました」


「なんだい、そりゃ! 

 勇者って、それほどのものかい」


「ええ、このパンゲア世界で、彼はヒーローですよ」


「どうもねえ。

 我が子だからかもしれないけど、ちょっと信じられないねえ」


「とにかく、一度マスケドニア王国に送りますよ。

 もう女王陛下と向こうの国王には、話してるんです」


「分かったよ。

 ここからどうやって行くんだい?」


「ちょっと目をつぶっててください」


 史郎が指を鳴らすと、エミリーたちを城に残し、加藤、加藤の両親、ヒロ姉がマスケドニア王宮の来賓室に瞬間移動した。


 ◇


 あらかじめ念話してあったので、俺たちがマスケドニア王宮に現れると、部屋にはマスケドニア国王、軍師ショーカ、ミツさんが待っていた。あまり人前に出ることがない、ミツさんのご両親の姿もあった。


「おお! 

 勇者カトー、よう帰ったな。

 久しぶりじゃのう」


「陛下、ただいま」


「長いこと留守にしておったので、いったいどうしたことかと心配しておったところじゃ」


 これには、俺が答える。


「聖樹様のお導きで、私たちの世界へ戻っておりました。

 勇者を長くお借りして申しわけありません」


「ははは、シローよ、他人行儀なことを言うな。

 それに、なんと聖樹様のお導きとはな。

 大いに納得したぞ。

 さすがは、勇者じゃな」


「いや、俺は、何もしてないんだけど」


「彼は、向こうでも大活躍でしたよ」


「そうか、そうか。

 で、この方々が、勇者殿のご家族じゃな?」


「ええ。

 おい、加藤、みんなを紹介しろよ」


「ああ、そうだな。

 えー、こちらが父、母、そして、姉です」


「おまえ、ひどい紹介だな」


「他にどうしろってんだ」


「とにかく、俺は今日中に天竜国へ向かうから、もう行くぞ」


「おい、ボー、つれないこと言うなよ!

 もう少しだけいてくれ」


 俺は、加藤の背中を叩くと、立ちあがった。


「陛下、ショーカさん、俺はこれで失礼します」


「うむ、ご苦労であったな」


「これ、俺たちから陛下へのお土産です。

 後で、加藤から説明を受けてください。 

 あと、加藤の両親には、こちらに滞在する間だけ、多言語理解の指輪をお貸しくださると助かります」


 確か、伝説級の指輪があと二つ、残っていたはずだ。


「おお、そうじゃな。

 そうしよう。

 お主も、また近いうちに来てくれよ」


「ええ、必ず」


 俺は、いつになく神妙な面持ちで立ちつくしているヒロ姉に、多言理解の指輪を渡す。


「ヒロ姉、それ着けると陛下と直接話せるよ。

 今のうちにそうしとかないと、ヒロ姉だけは後で俺と行くところがあるからね」


「えっ? 

 私?」


 俺は、ヒロ姉が驚いた顔をしたのを見届けると、アリスト城の迎賓館に跳んだ。

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