第31話 『異世界通信社』の新入社員
ニュースでは、異世界との接触について、すでに事実として報じられるようになっていた。
新聞、テレビ、ラジオ、ネットはこのことで持ちきりだ。
しかし、俺たちの周囲はいたって静かだった。
どうやら首相は、女王様の言葉に従ったようだね。
二日間の休暇できちんと睡眠をとった柳井さん、後藤さんは、イキイキと働いていた。
「私、こんな大きな仕事に自分が関われるなんて思ってもみなかったわ」
柳井さんは、あくまでも謙虚だ。
「いやー、仕事がこんなに楽しいものなんてね」
後藤さんが笑っている。
俺たちがいるのは、カフェ『ホワイトローズ』の地下だ。
市街区にあるので地下に十分な空間があるか心配していたが、数本のパイプを除けば特に問題はなかった。
地下室は、そのパイプをかわす関係上、下に行くほど大きくなるように作った。
あまり大きくすると崩落の危険があるから、土魔術で固めながら掘った。
複数の太い支柱もきちんと入れてある。
地下4階建ての大作だ。
柳井さんと後藤さんの居住スペースも作った。
会社の業務に関しては、初めどのメディアの報道も全部許していたが、今では制限をつけいる。
どういうことかと言うと、『異世界通信社』を通しての情報にクレジットをつけさせる事にしたのだ。クレジットとは、新聞記事の最後に書いてある「〇〇社提供」というやつだ。
以降、同社が提供する『初めの四人』に関する情報は、必ず『異世界通信社』のクレジットを打つこと。
それを怠った場合、以後『異世界通信社』からその社へ情報は提供しない。
その社に他社が情報を漏らした場合も同じ扱いとする。
こういった連絡をマスメディア、各報道機関に入れてある。
これは、後藤さんからの進言でおこなった。
だから、現在一般向けに流れている異世界の情報には、全て『異世界通信社』の名前が躍っている。こうして『異世界通信社』は、一躍世界中で知らぬ者がない会社となった。
また、社員も一人増えた。
新入社員については、次のようなことで決まった。
◇
首相官邸の地下で閣僚との会見をした際、俺は銃を撃とうとした実行部隊を一人残して消した。
その一人というのが、黒服を脅し、『初めの四人』の情報を政府筋に流させた男だ。
俺は奴を畑山邸に送っておいた。
その男を見た遠藤という名の黒服は、観念して自分の喉を
しかし、俺が『・』を付けておいたから、そこから展開されたシールドが彼を守った。
官邸から畑山邸に瞬間移動した俺が目にしたのは、がっくりと崩れおちる遠藤の姿だった。
「おやっさん、す、すんません」
男泣きにくれている遠藤の横に、畑山のおやじさんが立った。
「遠藤、おめえ、脅されてたらしいな」
遠藤は何も言わなかった。
「おめえは、今日限り組を破門だ。
ただ、少しでもワシやこの組に何かを感じてるならシロー兄貴の世話になれ」
「お、親分……」
遠藤は、再び号泣を始めた。
「シローさん、半端なやつですが、どうかこいつの事よろしくお頼みしやす」
こうなったら仕方ないよね。
ただ、「アニキ」と「オジキ」だけは何としても拒まねば。
「辛い思いをしたね。
妹さんを守りたいっていう、あなたの気持ちがよく分かったよ」
そう言って遠藤に肩を貸してやり、なんとか立たせた。
彼がおやじさんに深々と頭を下げるのを待ち、点ちゃん1号に瞬間移動した。
そこで待機していた柳井さんと後藤さんに、彼を新入社員として紹介したってわけ。
ちょうど人手が足りないところだったから、天の配剤だと俺は考えている。
◇
俺たちの周囲が落ちついてきた、ちょうどそのタイミングで同窓会の話が来た。
加藤宅を訪れ、クラスメートを『体力測定』に連れてきた、白神という同級生から連絡があったのだ。
彼から俺へは連絡方法が無いから、加藤からの念話でそれを伝えられた。
畑山さんと舞子には、中西という女子から連絡があったそうだ。
今はどうしているか知らないが、確か白神と中西はつきあっていたはずだ。
大方、卒業前に同窓会で二人の幸せを見せつけたくなったのかもしれない。
『(・ω・)ノ ご主人様がひねくれてるー』
だって、点ちゃん、つきあってるんだよ。
リア充死すべしって言ってもいいよね?
『( ̄ー ̄) ……どうしようもないな、この人』
点ちゃんが……点ちゃんが冷たい。
『(+ω+) もう、呆れかえって何も言えません。ルルさんにさっきの記憶を見せてねって、ブランちゃんに頼んでおこー』
どうしてそんなに俺の心をえぐるような事を――。
『(*ω・)=ll⇒ もう少しえぐったら、穴が開いて風通しがよくなるね』
グサッ
も、もういいです。私が悪うございました。
『d(u ω u) 分かればよろしい』
……。
こうして心に深い傷を負った俺は、結局のところ同窓会に参加することを決めた。
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