第17話 ダークマター
二回目のインタビュー・オークションは、凄いことになった。
最初のインタビューから三日後には、すでに入札最高額が一千万円を超えていた。
インタビューから三日目、白騎士から連絡があった。
この前インタビューを受けた日に、騎士たち全員に通信用パレットを渡してある。
白騎士からの連絡は、後藤さんから、プライベートで会ってほしいというものだった。
後藤さんが抜け目なく、『ホワイトローズ』の電話番号付きコースターをポケットに入れたのを思いだした。
次に電話があったら、二日後に『ホワイトローズ』に来るよう伝えてもらおう。
柳井さんは、桃騎士の指導で、ページ作成やネット上のセキュリティーについての学習をおこなっている。
加藤、舞子、畑山さんは、家族や三人での買い物や町ブラに精を出している。
これは、これからの事を考え、騒ぎになる前にそういうことをしておくよう俺が勧めた。
興味深いのは、俺たちが帰ってきたと分かっても、同級生からの連絡がほとんど無いことだ。
不在期間が長かったので、「ちょっと怪しいヤツら」扱いされているのかもしれない。
後藤さんからの連絡は、その日の内にあったそうだ。
柳井さんに念話して、二日後、午後三時の予定を空けてもらう。
彼女が早めにこちらに来ると聞き、自宅で外出用の服を着て待つよう言っておく。
柳井さんはいぶかしんだが、俺がまあとにかくと説得すると最後には納得した。
◇
二日後、俺は畑山邸の上空に停めてある点ちゃん1号から、柳井が借りている部屋の前に瞬間移動した。
ノックすると、打ちあわせたとおり仕事用のスーツを着た柳井さんがドアを開けた。
「史郎君、どうやって来たの?
私、住所教えてたっけ?」
俺は、部屋に入れてもらう。
綺麗に片づけられた部屋は、引っこしの用意をしているようだ。
「あれ?
柳井さん、引っこすの?」
「ええ、実家が〇〇にあるからそちらに越そうと思って」
会社を辞めたので、安定した収入が無くなってるからね。
「俺たちが向こうの世界に帰るまででしたら、狭いところですが、住む場所は提供できますよ?」
「それって、お茶を飲ませてもらった部屋の事?」
「ええ、そうですが。
お嫌ですか?」
「うーんどうしようかな。
そこまで甘えていいのかしら」
「もう俺たちは、同じ会社で働く仲間です。
頼りにしてますよ」
「そ、そう?
じゃ、しばらくそこに居させてもらうかな」
「それほど広い場所じゃないから、荷物は最小限になさってください」
「ええ、それじゃ、また必要な荷物だけ仕分けしておくわ。
ところで、こんな時間にここにいて、約束の三時に間にあうかしら。
あと二十分しかないけど」
柳井が、壁の掛け時計を確認している。
「ああ、それは俺の魔法を使えば何の問題もありませんよ」
俺は彼女の手を取った。
気のせいか、柳井さんの顔が少し赤くなったようだ。
『(*'▽')つ ご主人様はダメですねー』
えっ、ここで!?
最近ときどき、点ちゃんの突っこむタイミングが分からない。
「では、手を放さないようにしてください」
柳井さんが、黙って頷く。
次の瞬間、俺たち二人はカフェ『ホワイトローズ』内のカウンター横に立っていた。
「あれ!?
シローちゃん、いつの間に入ってきたの?」
サブローさんが、驚いている。
柳井さんは、声が出ないほど驚いてるけどね。
今日も一番奥のテーブルに着く。
座るとやっと落ちついたのか、柳井さんが話しかけてくる。
「史郎君、今のなに?」
「俺の魔法の一つで、一瞬で場所を移動できるんですよ。
まあ、細かい条件はあるんですけどね」
「心臓が口から飛びだすくらい驚いたわ」
「でも、柳井さんは、異世界の話を信じてくれたんでしょ?」
「それとこれとは別よ!
今度やるときは、前もって知らせてちょうだい」
「分かりました。
驚かせてすみません」
そのタイミングで後藤さんが、店内に駆けこんでくる。
なぜか血相を変えている。
「あ、や、柳井さん……」
「後藤さん、落ちついて」
柳井さんが席を立ち、後藤さんをテーブルにへ連れてくる。
「これが落ちついてられますか!
何ですか、あのカード!」
俺が話を引きとる。
「後藤さん、あれ調べたんですね?」
「ええ、大学の知人に頼んで、調べてもらいました」
「で?」
「その大学は、今、大騒ぎですよ。
なんせダークマターの現物ですから」
柳井さんが尋ねる。
「後藤さん、ダークマターって何?」
「ああ、ダークマターって言うのは、宇宙を作っている物質で、地球上で知られていないもののことです」
「そういえば、聞いたことある気がするわ」
「おまけに、あのカード、レーザーやダイヤモンドカッターでも傷一つつかなかったんですよ」
そのシールドをぶち破った、竜王様のブレス攻撃ってあり得ないよね。
「じゃ、あのカードは、もう役割を終えたわけですね」
俺が指を鳴らすと、テーブルの上にひらりと白銀のカードが舞いおちた。
「はい、これは返しておきますよ。
もう大学で調査しないように」
俺がカードを渡すと、後藤さんが呆れた顔をしている。
すぐに彼のスマートフォンが鳴った。
彼がそれに出る。
「ちょっと失礼しますよ。
例の大学からのようですから……。
もしもし、ええ、後藤です。
えっ!
カードが消えた?
そ、そうですか。
謝りに来る必要はありませんよ。
そのカードは、今、俺の手元にありますから」
そう言うと、彼は通信を切った。
目の前にカードをかざし、しげしげと見ている。
「後藤さん、そのカードがなぜ傷一つ付かないのか、なぜ今まで知られた物質ではないのか、興味はありませんか?」
「も、もちろんありますともっ!
教えてもらえるんですか?」
俺は柳井さんに頷くと、後は彼女に任せた。
彼女は、俺たち四人が異世界に転移したこと、転移することで得た能力があること、加藤が高くジャンプできる秘密もそこにあることを話した。
「さっき、カードが突然大学からここに移動したでしょ。
あれは史郎君の能力」
後藤さんは口を大きく開けたまま黙って彼女の話に耳を傾けていたが、聞き終えるとこう言った。
「信じられない。
しかし、この目で実際に見てしまうと信じるしかない。
柳井さんが、いい加減なことを言うとも思えない」
「俺たちの周りは、これから大変な事になるでしょう。
そのために、優秀な人材が必要なんです。
あなたも柳井さんと一緒に働いてみませんか?」
俺は、一歩踏み込んだ発言をした。
「……少し考えさせてください。
しかし、本当に異世界があって、そこには魔術があり、魔獣が棲んでいるなんて、誰が信じてくれるだろう」
「ええ、私も最初は半信半疑だったけど、今はもう全く疑っていないの」
柳井さんが、きっぱり言いきる。頼もしい広報担当だ。
「しかし、これはもの凄いことになるぞ。
確かに、柳井さん一人だけでは対処が難しくなるだろうなあ。
史郎さん、一晩よく考えて、明日朝、返事します」
後藤さんは、引きしまった男らしい顔に真剣な表情を浮かべ、俺と視線を合わせた。
「ええ、そうなさってください。
できれば第二回インタビューから手伝ってもらいたいのですが」
「次のインタビューは明後日ですね。
明日返事をすれば、ぎりぎり間に合いそうです」
「では、今日はこれで。
俺は柳井さんを魔法で送っていきますから」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。
あの、実はこの後、柳井さんをお食事に誘うつもりだったのです」
男らし後藤の顔が緩み、赤く染まる。
「え?
そうだったんですか。
じゃ、柳井さん、ぜひご一緒なさってください。
これは、業務命令ですよ」
俺が片目をつぶり、そう話しかける。
なぜか、柳井さんの顔に一瞬、影がよぎったように見えたが、彼女は微笑んでこう言った。
「ええ……後藤さんとのお食事、楽しみだわ。
エリートさんは、どんな所に連れていってくれるのかしら?」
「ははは、私はエリートでもなんでもありませんよ。
では、行きましょうか」
点ちゃん、あの二人、いい感じじゃない?
『( ̄ー ̄)つ この人、どうしてこんなにダメダメなんだろう』
えーっ! こんなタイミングでっ!?
ますます、点ちゃんの突っこみのタイミングが分からない。
カウンターで、グラスを磨いていたサブローさんが、ぼそっとつぶやくのが聞こえた。
「史郎ちゃんには、女心の機微はまだまだ理解できないようね」
おい、なんだそれは? 俺が悪いのか。
『( ̄ー ̄) 悪いんだよー』
点ちゃん、「よー」のところにアクセント置くのやめてくれる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます