第3部 インタビュー

第15話 ルビーと現金収入


 ネット上に流れた加藤の動画は、あっという間に世界中に拡散し、騒ぎの波が俺たちの周辺にも押しよせはじめた。


 ジャンプ動画には翔太君も映っているので、報道関係者らしい者の姿が、彼の周囲にちらつくようになった。

 彼の側には、いつも『騎士』が付きそっているが、どうしても彼らの都合がつかないときは、おやじさんが黒服をつけてくれている。

 まあ、翔太君には、俺も点をいくつかつけてあるから、万が一もないだろうけどね。


 加藤の家も凄いことになっている。

 報道陣が何台もカメラを構え、加藤が出てくるのを待っている。


 加藤は家から出入りするとき、念話で俺に透明化を頼むから、出待ちなんかしても無駄なんだけどね。

 すでに一部雑誌では、「異世界からの帰還」の文字が踊りはじめている。

 ただ、そういう記事は、どちらかというと際物扱いで、大手新聞社やテレビは沈黙を守っていた。


 騒ぎが大きくなる前にと思い、町へ出かけた。


 前回一時帰還したときは、「チンピラ貯金」からお金を借りたが、後でルルに叱られたから、今回は堂々とお金を手に入れることにしたのだ。

 

 そういうことで、今日は、畑山のおやじさんから紹介された宝石商に来ている。場所は、畑山邸がある町の繁華街になる。


 思っていたより大きな構えの店で、一階が一般向けの店舗、二階が高額商品のみを扱う店舗となっている。

 おやじさんが付けてくれた黒服の話だと、二階は最低でも五百万円からの商品だそうだ。


 俺は一階を素通りし、二階に上がる。

 買取専用のコーナーは無いから、客用の椅子に座って待つ。


 それほど待たずに、白髪をオールバックにした、壮年の男が現れる。


 若いころ何かスポーツをしていたのか、ガッチリした体格をしていた。

 俺の後ろに控える黒服と相撲をしても、いい勝負になりそうだ。


「本日は、お越しいただき誠にありがとうございます。

 店長の前田と申します。

 なんでも、商品の買取をご希望とか」


 畑山のおやじさんが、根回しをしてくれたらしい。

 ここまでは、非常にスムーズに事が進んだ。


「ええ、ちょっと売りたいものがありまして」


 俺の言葉に、店長の目がキラリと光る。


「どういったお品でしょうか?」


 俺は、ボロ布で無造作に包んだものを、ごとりとテーブルの上に置いた。

 店長が、片目に拡大鏡を付けると、白手袋を取りだし両手に着けた。


「では、拝見します」


 彼の手が、品物を包んでいるボロ布をひらひらとめくっていく。

 最後の一枚がめくられたとき、そこに現れたのは、赤い石だった。

 これがルビーであることは、前もって点ちゃんに確認してもらっている。


「!」


 布を開いたまま、店長の手がピタリと停まる。

 店長は、固まったように動かなくなった。


「あのー、どうしましたか?」


 店長が、呆けたような顔でこちらを見る。


「こ、これは一体どこで?」


「先祖代々伝わるものとしか言えません」


「ちょっと調べさせてください」


 店長は、三十分もの間、拡大鏡で慎重に石を調べていた。

 何かブツブツつぶやいているが、「ピジョン」とか、「エカチェリーナ」とか、あまり聞かない言葉ばかりで念仏のようにしか聞こえなかった。


「紛れもなく自然石ですな。

 しかも不純物がほとんどない。

 色もすばらしい」


 俺は彼の白手袋がブルブル震えているのを見て、違和感を感じていた。


「お名前はシローさんとか。

 これほどの宝石は、今まで見たことがありません」


 えっ! そんなにすごいものなの?

 竜王様の宝物庫で一番小さいやつなんだけど。


「シローさんは、ルビーについてご存知ですか?」


「いえ、全く。

 宝石は門外漢です」


「ヨーロッパで最大と言われた幻のルビーがあるのですが、それはニワトリの卵より少し小さかったと言われています」


 えっ! これって俺の拳より少し大きいんだが……。


「これだと二千カラット以上あるかもしれません。

 間違いなく世界最大のルビーです。

 畑山さんからのご紹介なので、何とかしてさしあげたいのですが、これほどのものになると、ウチでは扱いきれません。

 誠に申し訳ございません」


 まだ、震えている手をテーブルに着いている店長を後に残し、俺は店を出た。

 困ったな、どうしよう。

 現金収入がないと、柳井さんの給料が払えない。

 これは深刻な問題だぞ。


 俺はどうやって現金を手に入れるか、それに頭を悩ますことになった。


 ◇


 宝石商への仲介をしてくれたお礼を言うため、畑山邸に立ちよる。

 俺が来たことを聞いたのだろう、大広間でおやじさんと話していると翔太君が入ってきた。


「ボーさん、加藤さんへのインタビューの申しこみが何件か来ています」


 それを聞き、あるアイデアが閃いた。


「翔太君、全ての申しこみに対して、連絡先だけは聞いておいてくれる?」


「分かりました。 

 パレットに書いて送ればいいですね?」


 彼は本当に頭が切れる。打てば響くというやつだ。

 翔太君には、メール用パレットを渡してある。

 俺は、柳井さんに念話を繋ぐ。


『柳井さん、今、ちょっといいですか?』


『な、なに、これ?

 頭の中で史郎君の声が聞こえる』


『ああ、これ、俺の魔法の一つなんです。

 ところで、加藤の所にインタビューしたいという申し出が来ているのですが――』


 俺は、彼女に計画を伝えると、念話を切った。


『つ( ̄ー ̄) ご主人様が悪い顔してるー』 


 悪い顔って、どんな顔だろう。今度、鏡を見てみよう。


 こうして、俺は現金獲得作戦に取りかかった。

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