第13話 騎士の剣


 俺たちは、カフェ『ホワイトローズ』で、翔太君の『騎士』に会っていた。

 彼女たちは、個性的と言うだけでは済まされないキャラクターだった。


 男らしいキャラが翔太君の前では崩壊する、白騎士マスターサブロー。

 紺のスーツに身を包み、ボソッと話すキャリアウーマン、黒騎士。

 翔太君を守るつもり満々の双子女子高生、黄騎士と緑騎士。

 年齢不詳の魔法少女(?)桃騎士。


 その濃いキャラクターの前で、俺たちも自己紹介させられることになった。

 しかし、みんな自己紹介できるような状態ではなかった。

 加藤は、吐き気がするのか口を押えてうつむいている。

 畑山さんは、この世が終わるような顔をして、眉間を指で押さえている。

 舞子は、口をポカーンと開けたままだ。


 しょうがないから、俺が皆を紹介しようとした。

 しかし、その前に、翔太君から待ったがかかる。


「こういうオフ会では、お互いの本名は明かさないのがエチケットなんです」


 なるほど、だから彼女たちは、名前を言わなかったのか。

 それなら、こちらもそれに合わせよう。


「えー、初めまして。

 俺が皆を紹介します。

 まず、こちらが『聖女』です。

 そして、こちらが『聖騎士』です。

 彼は、『勇者』、俺が『魔法使い』です。

 今日は、集まっていただきありがとうございます」


「たったそれだけー? 

 必殺技とか教えてくれないの?

 あんまりつれなくすると、魔法でらしめちゃうぞ、プンプン」


 桃騎士が不満を漏らしたが、俺は必殺技を教える気はない。

 大体、必殺技なんて持ってないしね。


「プリンス、今日は大事なお話があるということでしたが……」


 黒騎士が、低い声でボソッと話す。


「うん、そうだよ。

 以前オフ会で、うちの姉とボーさんの話をしたと思います」


「もちろん覚えてるよ。 

 異世界の女王様とプリンスのヒーローでしょ。

 何度も聞かされてるもん」


「緑騎士さん、『聖騎士』がボクの姉で、こちらの『魔術師』がボーさんです」


「「「えっ!」」」


『騎士』の五人が驚く。

 それより、その発言で、俺と畑山さんの身元がバレちゃったんじゃないか?


「プリンスのお姉さんって、異世界に行ってたんじゃないの?」


 白騎士の疑問は当然だろう。


「ボーさんの魔法で帰ってきたんだって」


 翔太君の言葉に、騎士たち全員が、ばっとこちらを見る。


「「「ヒーロー、ぱねー!」」」


 そこ、なんで声が揃うの!?


「ということは、聖騎士さんは、リアル女王様!?」


 桃騎士が、畑山さんをハート杖で指す。


「は、はあ、まあそうです」


 畑山さんらしくない、オドオドした反応だ。


「「「聖騎士、ぱねー!」」」


 この人たち、ひょっとして、前もって練習してきてないか?


「ってことは、まさかこちらの『勇者』も、本物とか?」


 セーラー服の黄騎士が、加藤の方を指さす。


「あ、ああ、一応」


 加藤が、困ったような顔で答える。


「「「勇者、ぱねー」」」


 緑騎士が当然のように続ける。


「で、もしかしてこちらの『聖女』も本物?」


「え、ええ……」


 舞子は、当惑顔だ。


「「「聖女、ぱねー」」」


「で、あたしが、プリンスの白騎士」


 最後になぜか、サブローさんがかぶせる。


「「「白騎士、死ねー」」」


 そこまで、合わせるんかい!


 ◇


 あまり意味があるとは思えない自己紹介が終わると、翔太君が話を元に戻した。


「今回相談したいのは、お姉ちゃんたちが異世界から帰ってきたって、世界に公開したいからなんだよ」


 あれ? 今、翔太君、「世界」って言ったけど、「世間」の間違いだよね。

 まだ、小学五年生だもんね。間違えることもある。


「プリンス、そんなことしたら大騒ぎになると思いますが……」


 お、サブローさんが、普通のこと言った。

 あれ? でも、これって、サブローさんが、俺たちが異世界に行ってたって、本気で信じてるってことじゃないの?


「えー、俺たちが異世界から帰ってきたって、本当に信じてるんですか?」


 一応、五人に確認してみる。


「プリンスが言ってることだから、信じるに決まってるわ」

「「プリンスは絶対!」」

「信じるの当然」

「愛の魔法に、嘘などないわよ、ウフッ」


 あー、「うふっ」攻撃を受けた加藤が、やばい顔色になってる。

 しかし、この人たち、プリンスを狂信してないか?

 サブローさんが、俺の方をジロリと見る。


「私たち、プリンスを狂信してるんじゃないのよ。

 愛してるだけ」


 こ、こわひっ! 

 これは、テレパシーか? 

 テレパシーなのか!?


「「「白騎士、ぱねー!」」」


 確かに、ぱねー。


『(?ω・)ノ ご主人様、「ぱねー」ってなにー?』


 半端じゃないってことだよ。

 あっ! 俺、いけない事、点ちゃんに教えちゃった?


「えとね、昨日こういうことがあったの」


 翔太君は、昨日テレビ局であった事を『騎士』たちに話した。


「ということは、プリンスは、その動画を持っているのね?」


 魔法少女(?)桃騎士が、落ちついた声で言う。

 初めて普通の声を聞いたよ。だけど、そんなことより魔法少女の格好で自分のこと『騎士』って言ってるのが気になる。


「動画さえあれば、拡散は簡単でしょ。 

 桃騎士がいるんだから」


 サブローさんが謎の発言をする。

 首をかしげる俺に答えてくれたのは、翔太君だった。


「桃騎士はね、伝説のハッカーなんだよ」


 なんじゃそりゃ!


『(*'▽') ぱねー!』


 あちゃー、やっぱり、点ちゃんが変な言葉を覚えちゃってるよ。

 まあ、使い方は合ってるみたいだけど。


「拡散を防げって言われたら、私でも大変だけど、拡散させろってことなら、プリティー簡単ね」


 ああ、一瞬で真面目モードから元に戻ってるよ、桃騎士は。


「プリンス、その動画って持ってる?」


 翔太君が、ポケットに手を入れると、メモリーカードを取りだした。


「はいっ!」


 桃騎士は、掛け声とともにそれを受けとったのはいいが、明らかに翔太君の手を握っていた。


「あ、あんた、今、畏れおおくもプリンスのお手に触ったでしょ!」


 白騎士が、それを見逃さず突っこむ。


「プリプリプリティ~、マジック、ぼーん♪」


 桃騎士はアニメソングでごまかそうとしたようだ。

 ただ、彼女は歌いながら、ハート形をしたバッグから小型のPCを取りだした。

 アニメソングでリズムを取りながら、かすむほどのスピードで指先が動く。


「マジック、ぼーん♪」


 彼女は、「ぼーん」の所でリターンキーを押した。


「これで、一日もすれば世界中に拡散するわよ」


「す、すごいな」


 さっきまで、吐き気を覚えていた加藤だったが、今は目を丸くして、桃騎士の方を見ている。


「彼女だけじゃないのよ。 

 黒騎士は現役の警察官で合気道の達人。

 黄緑きみどりも、十ヵ国語以上ペラペラなんだから」


「「黄緑って言うな!」」


 双子の抗議を無視して、サブローさんは続けた。


「プリンスの『騎士』というからには、武器、まあ騎士に例えると剣ね。

 それが無い者は、騎士にはなれないのよ」


「えっ? 

 他にも騎士の候補者はいたんですか?」


 俺は驚いた。


「そうよ。 

 私がチェックしただけで、五千人はいたわね。

 その中から選んだのがこの五人ってわけ。

 まあ、桃騎士と黒騎士とは、知らない仲でもなかったしね」


「もしかして、サブローさんも普通の人じゃないんですか?」


「元特殊部隊教官。

 体術、武器共に達人」


 黒騎士が答えてくれる。


 な、なんなんだ、この人たち……。

 そして、プリンスとしてそれを従えている翔太君って……。


『(*'▽') ぱねー!』


 点ちゃんから、「ぱねー」頂きました。


 こうして、俺が困難を予想していた公開作戦は、あっさりその端緒を切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る