第11部 エルフ王からの恩賞

第48話 恩賞


 前々から、俺が恐れていた時が来た。


 エルフ王が恩賞をくれるというのだ。しかも、公式の場で行うとのこと。

 こういうくつろげないイベントは、極力避けてきたのだが、今回はリーヴァスさんを通しての話でもあり、断りにくい。

 エルフ王も、それを見越して、リーヴァスさんを利用しているふしがある。困った事だ。


 だいたい、そんなことになったら、礼服の用意からしなければならない。そして、礼服というものは、窮屈でくつろげないと相場が決まっている。

 俺は、頭を抱えていた。


「パーパ、王様からプレゼントもらえるってホント?」


 ナルの言葉で驚く。子供たちにも恩賞? 何だろう。


「シロー、二人が楽しみにしていますから……。

 お願いできますか?」


 ルルは、娘たちの事でもないと、俺がそういったものに興味を示さないと、分かってるんだね。


「ははは。

 それじゃ、仕方ないな。

 ナルとメルが喜ぶんなら、まあいいか」


「ありがとう」


「いや、お礼を言うのは俺の方さ、ルル。

 君の言葉が無かったら、もう少しでナルとメルを悲しませるところだったよ」


 こうして、俺たちは、エルフ王から恩賞をもらうことになった。


 ◇


 どこから聞きつけたのか、恩賞に向けての礼服は、国王服毒事件で俺が助けた城の薬師くすし、ジールさんが全て用意してくれた。


「やっと少しだけ、ご恩が返せますな、ははは」


 まあ、それで薬師さんの気が済むならいいけどね。俺は、丁寧にお礼を言い、彼の好意を受けいれた。


 靴や、服に付ける飾りは、マーシャル卿からもらった。


「サーシャの可愛さが世界に広まった、そのお礼ですよ」


 本当は、異世界にまで広がってるんだけどね。


 ◇


 こうして、エルフ王の前には、他人の好意で全身を固めた、俺がひざまずいている。

 その後ろには、リーヴァスさん、ルル、コルナ、ミミ、ポルに加え、着飾った女性に付きそわれたナルとメルもいる。


「リーヴァス殿。

 前回に続き、この度もこの国を国難から救うてくれた。

 まさに救国の英雄だの。

 名誉侯爵位と領地を与える」


「は、有難き幸せ」


 騎士たちから、盛大な拍手が起こる。


「コルナ殿。

 そなたの働きが無ければ、この国の厄災は、防げなかったと聞いておる。

 名誉子爵位と領地を与える」


 獣人の叙勲に、貴族からどよめきが起こる。


「ありがとうございます」


 コルナは全く表情を変えず、見事な礼を返した。


「ミミ殿、ポルナレフ殿。

 パーティ・ポンポコリンの一員として、大陸を越えての活躍、感謝する。

 武器と防具の目録から、好きなものを選ぶとよい」


 ミミとポルは、場慣れしていないからオドオドしている。


「は、はい」

「あ、ありがとうございます」


「ルル殿、そして、ナル殿、メル殿。

 そなたらが百ものグリフィン部隊に対処してくれたからこそ、この城は無事じゃった。

 先だって魔獣の大群を撃退してくれたことと合わせ、我らは二度も命を救われたことになる。 

 宝石の目録から、一人一つずつ、好きなものを選ぶとよい。

 それから、ナル殿とメル殿には、これをつかわそう」


 つきそいの二人の女性が、ナルとメルを陛下の前に連れていく。

 陛下は、手ずから二人の首にペンダントを掛けた。


「これは、エルフ王が、『魔獣大使』として認めた証じゃ。

 この国では、好きな魔獣に好きなだけ乗るがよい」


「わーい!」

「お馬さん!」


 最後の所は、二人にも理解できたのだろう。

 ナルとメルは、にこにこ顔で、元の位置に戻った。


「最後に、シロー殿。 

 人族の身でありながら、よくぞエルフ王族の命を救うてくれた。

 それも、一度ならず、数度にわたってだ。

 また、ダークエルフ大侵攻の際には、獅子奮迅の働きで、双方が被害らしい被害も出さずにすんだ。 

 我が国は、その功労に報い、そなたに名誉騎士位を授ける。

 また、禁書庫への立ちいりも、期限を設けずに許そう。

 他にも、目録が用意してある。

 ぜひ、受けとってくれ」


「はっ!」


 名誉騎士が何か、よく分からないが、くつろぎに必要なモノじゃないことは確かだ。


『へ(u ω u)へ 相変わらず、何かもらっても、ご主人様は、ありがたみがないねー』


 点ちゃん、ここは譲れないよ。


「最後になったが、シロー殿には、余から願いがある。

 娘の一人を、嫁にもろうてくれ」


 がーん!


 来ちゃったよ、厄介なのが。どうするかな、これ。断ったら斬首だよね、きっと。俺が断れないように、公式の場を使ったな。

 汚いなー、大人って汚い。


 ま、ここは、やり返すかな。

 俺は立ちあがると、こう言った。


「私が選んでもよろしいので?」


「おお、そうせい」


 俺は、壇上に登り、陛下の後ろに控える王女たちの目を、一人ずつ見ていった。

 幼いポリーネ姫は、俺の視線が怖かったのか、シレーネ姫のスカートにしがみつき、その後ろに隠れた。

 俺はゆっくりと歩き、ある王女の前で立ちどまった。

 両手をパンと合わせる。


 目の前にいるコリーダ姫の肌が、白から黒褐色に変わった。


「な、なにを!」

「シロー!」


 陛下とお妃が、叫び声を上げる。

 俺は、おもむろにコリーダ姫の手を取り、こう言った。


「では、『鳥かご』を出て、大空に羽ばたきましょうか」


 陛下とお后は、その皮肉が骨身に染みて分かったのだろう。俺から目を背け、うつむいた。


「ええ、一緒にね」


 コリーダ姫はニッコリ笑うと、俺の手を引き、王族が並ぶ上座から下に降りた。

 今この時、彼女は自分を縛りつけていた、しがらみから解きはなたれたのだ。


 俺たちとコリーダは、陛下に頭を下げると、控室へと下がった。

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