第46話 サーフィンと販路拡大 - ポンポコ商会3号店オープン -


 島でのバカンスは、二日目を迎えた。


 ナルとメルに頼まれ、点ちゃんボードを出した。点魔法の「付与 重力」で作った長さ一メートルくらいの板だ。下にあるものから、十センチくらいの所で、浮くようにできている。

 ボードが初めてのメンバーは、興味深そうに見ている。


 まずは、名手コルナが、乗り方を見せる。

 少し沖まで海面を滑っていくと、立ったまま波を待つ。


 この島は、外海に面しているから、時々大きな波が来る。

 コルナは、見事に、その波をつかまえた。

 波のチューブができると、その中を、スーッと滑っていく。

 その勢いで、皆のいるところまで、自然に戻ってきた。

 みんなが、拍手喝采する。


 初めての者にも、ボードを配る。コルナのような芸当は無理だろうが、波打ち際で滑るには、問題ないだろう。

 すぐに、みんなが夢中になる。


 娘たちとルルは、コルナから波乗りのコツを習っている。

 俺は、波打ち際で、初心者にボードの乗り方を教えている。


 なんと、一番最初に乗れるようになったのは、あのデロリンだった。子供の頃、故郷の海辺で波乗りをしていたそうで、体重移動のコツが最初からつかめていた。

 彼も手伝い、一時間ほどで、全員が乗れるようになった。


「ニャ~、気持ちいい~」


 ミミが、珍しく猫言葉をしゃべっている。


「うわ~、これはいいなー」


 ポルもボードが気に入ったようだ。

 それぞれがボードを楽しんだ後は、水着から服に着がえ、点ちゃん1号に乗りこむ。


 この後、俺たちは、食事会に招かれている。


 ◇


 点ちゃん1号は、群島を飛びたつと、あっと言う間に学園都市上空にやって来た。


 学園都市が初めての、パリスやメリンダは、上空から見た都市の偉容に驚いていた。

 指定された場所は、かつて俺たちが滞在した、ギルドの宿泊施設だった。

 その庭に、降下する。

 そこには、懐かしい顔が待っていた。


「シロー! 

 よく来た。

 久しぶりだな」


 握手しながら、もう一方の手で肩を叩いてくるのは、元パルチザンのダンだ。

 でっぷりした体は、変わっていない。こう見えて、彼は『黒髪の勇者』だ。


「シロー」


 小声で俺に話しかけてくるのは、おくるみに包まれた赤ちゃんを抱えた、美しい犬人ドーラだ。

 赤ちゃんは、すやすや寝っている。

 見ると、頭の上に垂れ耳がついている。人族のダンと彼女の間にできた子供だが、犬人族の特徴が強く出たらしい。


「ホープって言うのよ。

 まだ、生まれて一週間なの」


 俺は、プレゼントも兼ね、点魔法のコケットを渡しておく。俺がこの世界を去れば、ハンモック部分が消えるかもしれないが、それは、ダンに作ってもらおう。

 ダンの趣味は、意外にも木工や金属加工みたいだから、すぐに代替品ができるだろう。


「また、お目に掛かれて光栄です」


 優雅に礼をする女性は、この都市の最高権力者メラディス首席だ。


 俺たちは、ギルドから提供された建物に入った。


 ◇


 中には、元パルチザンの主要メンバーやギルドの冒険者、この地に残って獣人解放の事後処理に携わっている獣人たちがいた。


 俺たちが、入口から中に入ると、拍手と歓声が上がる。


「歓迎! パーティポンポコリン」


 そう書かれた横断幕が、壁に張ってある。

 ミミ、ポル、コルナが、獣人たちから、握手を求められている。

 備えつけのテーブルの上には、俺も初めて見る学園都市世界の料理が、所狭しと並んでいた。


「今日は、この町を救った英雄と、その仲間が帰ってきてくれた。

 みんな、思う存分楽しんでくれ。

 じゃあ、乾杯!!」


 ダンの音頭で、みんなが乾杯する。

 皆の声に驚いたのか、ダンとドーラの赤ちゃん、ホープが目を覚ました。大きな声で、泣きはじめる。

 俺は、ドーラに言い、ホープをコケットの上に載せてもらった。

 ホープは、すぐに泣きやみ、寝息を立てだした。


「「「(すげー!)」」」


 押しころした、皆の声が上がる。

 俺は、メラディス首席に事情を話し、コケットを宣伝する許可をもらう。


「あなたには、まだ十分報いていませんでしたね」


 そう言った主席が提案したのは、俺も思いつかない、大胆な宣伝方法だった。


 ◇


 次の日、ちょうど学園都市の通学通勤に当たる時間帯に、住民は思いがけないものを目にした。


 学園都市のビルには窓が無いのだが、そのつるりとしたビル、一つ一つの壁面に、大きな映像が映ったのだ。


「みなさーん、お早うございまーす」


 元気な声で登場したのは、ミミだった。


「お久しぶりー、元気にしてたかな? 

 今日は、ミミちゃんから、耳寄りなお知らせがあるよ」


 画面が切り替わり、泣いている赤ちゃんが映った。赤ちゃんを抱いている獣人の女性が、おくるみをそっと緑のハンモックに降ろす。すると、すぐに鳴き声が寝息に変わった。

 ミミの声が画像に重なる。


「泣いてる子でも、敵わない。

 ステキな寝心地、ふわふわコケット」


 次の画像は、サーシャのものだった。

 エルフの少女が、トテトテ歩いてくると、ぽふっとベッドに横になる。


「ふわふわ~♪」


 サーシャの気持ちよさそうな顔がアップになる。

 画像が、再びミミに変わった。


「寝心地抜群の緑のベッド、ふわふわコケット。

 提供は、『ポンポコ商会』でしたー。

 あ、忘れてた。

 協力は、エルファリアのギルド本部と『南の島』でした。

 お送りしたのは今回も、パーティ・ポンポコリン所属、ミミでしたー」


 街が大騒ぎになったのは、言うまでもない。

 行政府には、コケットとポンポコ商会についての問いあわせが殺到した。特に生まれたばかりの子供を持つ、親たちからの反応が凄かったらしい。


 さすがなのはメラディス首席で、問いあわせに応ずる部署をあらかじめ作り、対処していた。輸入の手続き、関税等に関しても、融通を利かせてくれた。彼女は、そのために議会まで動かしたそうだ。


 この世界での販売は、ポンポコ商会学園都市支店が行うことが決まった。支店長はダンで、獣人たちと元パルチザンが、手伝ってくれる。

 彼らも獣人の事が落ちついたら暇になるから、ちょうどよかったとも言える。

 俺は収納している『緑苔』を全てその支店の倉庫に出しておいた。コケットの組み立ては、支店に頼む。


 こうして、俺は、バカンス、懐かしい再会、販路拡大という三つの事を済ませ、学園都市世界を後にした。

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