第26話 ダークエルフの秘密(上)


 俺は、『南の島』にあった施設の警備兵、研究者、グリフォンの乗り手から、それぞれ一人ずつ選んで尋問することにした。


 まずは、警備兵である。胸についた飾りが一番多いものを選んだ。

 尋問は、地下の部屋で行う。もちろん、そこに着くまでは目隠しをしてある。

 魔道具で灯りをつけ、目隠しを外してやる。

 最初に警告しておく。


「俺は、フェアリスの人々をさらったお前たちに容赦するつもりはない。

 その覚悟で、質問に答えろ」


 大柄な警備兵は、気丈にも口を引きむすんで答えるつもりはないらしい。俺は、左足の神経を遮断する。

バランスを崩した男が床に倒れた。


「ぐっ」


「最初の言葉が嘘だと思うなら、そのままでいろ。

 俺は、一向に構わない」


 俺は奴の右足を指さした。


「な、何が知りたいんだ」


「いつから南の島を隠していた」


「二百年前からだと聞いてる」


「なぜ、そんなことをした?」


「お前、そんなことも知らないのか? 

 エルフに迫害されたからに決まってるだろう!」


 男は吐き捨てるように言う。


「フェアリスの能力で島を隠す技術は、学園都市世界のものだな?」


「なっ! 

 どうして、そのことを!」


 男は、自分がしゃべってはいけないことを漏らしてしまったと気づいたのか、顔をそむけた。


「あのような施設は、他にもあるのか?」


 男は、黙ったままだ。まあ、警備兵からこれ以上の情報を引きだすのは無理だろう。


 俺は、警備兵に点をつけ、地上まで運んだ。


 ◇


 俺は、次に研究者を尋問することにした。


 一番年かさに見える男を選んだ。警備兵にしたのと同じ警告を聞いただけで、震えあがっている。


「お前たちは、二百年前から、『南の島』を隠してきた。

 間違いないか?」


 警備兵の言葉を確認しておく。


「は、はい。

 そう聞いています」


「隠蔽の技術は、誰に教えてもらった?」


「学園都市の『賢人』からだと聞いています」


 やはりな。


「今、『南の島』には、学園都市の者がいるのか?」


「全員については分かりませんが、私が知っている研究者は、最近になって急に姿を消しました」


「そいつは、何か言いのこしたか?」


「いえ。

 よほど急いだのか、研究資料も放置してありました」


 なるほどね。学園都市から、追及の手が回るのを恐れたんだな。今の学園都市執政部がフェアリスの件を許すとは到底思えないからな。

 捕まれば、間違いなく死罪だろう。


「最近、『東の島』で、魔獣が暴走したんだが、そのことについて何か知らないか?」


「知りません」


 嘘はついていないようだ。


「ところで、ダークエルフの統治形態はどうなっている。

 大まかなことでいいから教えてくれ」


「……各地区から選ばれた、十人で作る議会で、重要な政策が決められます」


「王のような代表者は、いるのか?」


「形式的なものになりますが、その議会の議長がそれに当たるでしょう」


 ふむ。政治的には、ダークエルフの方がエルフより進んでいるかもしれない。


「議長は、どこにいるんだ?」


「普段は、中央都市の行政府にいるはずです」


「中央都市というと、お前たちの研究所があった町だな?」


「ええ。

 あの町のほぼ中央に、行政府があります」


「最後に、『南の島』と『西の島』にあるポータルについて教えてくれ」


「そ、それは……」


「手と足と目、どこを失いたい?」


「や、やめて下さい!

 話します! 

 話しますから」


 男は、頭を抱えてうずくまった。


「に、『西の島』の東部と、学園都市が繋がってると聞いています」


「お前は、ポータルを使ったことが無いのか?」


「あ、あります。

 私が使ったのは、『南の島』と、向こうの世界にある島を繋ぐポータルでした」


 島? もしかすると、学園都市北東にある群島のことかな?


「何のために、向こうに行った」


「そ、それは……」


 俺は、男の右目を指さした。


「ひっ、ひー! 

 やめて、やめて下さい!

 王女です。

 王女を連れて行きました」


 ははあ、モリーネのことだな。


「それには、エルフも関わっていたな?」


「ええ、貴族が何人か関わっていました」


「名前を覚えているか?」


「ええ、全員ではありませんが」


「教えてくれ」


 俺は、点ちゃんノートにそれを記録しておく。

 研究者が体調を崩したので、尋問はここまでにしておいた。

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