第21話 謎の大陸西部


 『西の島』の調査は、まず大陸西部から行うことになった。


 途中、中央山岳地帯も通るので、ついでにそこも調査する。

 俺たちは、点ちゃん1号に乗りこみ、低空を飛んでいた。

 港の廃墟から山岳地帯までの間には、森林地帯が広がっている。時おり、何かの遠吠えや鳴き声が聞こえる。地上を移動していたらと思うと、ぞっとする。

 デロリンは震えあがり、部屋の隅で膝を抱えている。


 森林が終わり、山岳地帯が始まるところで、大きな鳥型魔獣が襲ってきた。

 点ちゃんシールドにくちばしが当たる、甲高い音がする。

 ワイバーンたちは、ベースキャンプの守備に残してきたので、自分たちで何とかしなければならない。

 どうやって撃退するか悩んでいたら、攻撃がピタリと止んだ。

 ナルとメルが、透明にした1号の側面越しに外を見ている。


「「いい子、いい子ー」」


 それ、ここでも効きますか。凄いな、古代竜。

 ルルとコルナに褒められ、二人が喜んでいる。

 大人かたなしの活躍だね、娘たちは。


 さっきまで怯えていたデロリンが、目を丸くして二人を見ていた。


 ◇


 山岳地帯を越え、いよいよ『西の島』の西部地域に入った。


 森林は東側より深く、木々が密集している。

 点ちゃん、どうかな?


『(Pω・) 良く見えないけど、何かいるよー』


 どれでもいいから、点をつけられる?


『p( ・`д・´)q やってみる』


 点ちゃんにしては珍しく、十五分くらい手こずっていたようだ。


『(人*'▽') やっと付けたよー』


 おー! やったね! さすが、点ちゃん。


『(Pω・) 一メートルくらいの身長で、人型だよ』


 え? 子供かな?


『?(u ω u) うーん、まだ分かんない』


 じゃ、そいつの行先を突きとめよう。


『(^▽^)/ はいはーい』



 俺は、みんなに点ちゃんが標的に点を着けたことを知らせた。

 標的にがあれば、そこに向かうはずだ。


 少し早いが、デロリンに昼食を作ってもらう。

 スープの中に、小さな四角いパスタが浮いている。出汁だしは、昨日獲れた魚のアラで取ったそうだ。


「美味しー!」


「ホントだね。

 さっぱりしているのに、しっかり味がついてる」


「お酒が欲しくなりますな」


 リーヴァスさん、実はいける口なんだね。

 俺もルルも飲めないから、知らなかったけど。


『(Pω・) ご主人様ー、透明人間がいっぱいいるよ』


 俺の視界の中で、青い矢印が森の一番深い辺りを指している。

 食事が終わったら下に降りて、彼らとコンタクトを取ってみるか。


 さあ、いよいよ透明な存在の正体がわかるぞ。


 ◇


 俺たちは、デロリン、チョイスを1号に残し、大型ボードで地上に降りた。


 森の木々は密集しているが、なんとか歩くことはできる。

 俺たちはリーヴァスさんを先頭に、コルナ、娘たち、ルル、俺の順で森の中を進んだ。


『(・ω・)ノ ご主人様ー、矢印の方向に百メートルくらいで目的地だよ』


 ありがとう、点ちゃん。


 俺は、皆に念話で連絡する。

 先頭のリーヴァスさんが、進路を右前方に変える。

 少し進んだところで、彼の足が停まる。


「これは……」


 彼が立っているところまで行く。

 前方に手を伸ばすと、透明なガラスのようなものに触れた。

 恐らく、物理シールドだろう。

 点ちゃん、何とかなりそう?


『(・ω・)=l⇒ フフフ、私は大きさがありませんから、こんなもの意味がありませんよ』


 じゃ、お願いね。


『(^▽^)/ はーい』


 俺たちの前に青い円が広がったと思うと、それがトンネル型に変わる。

 念話でリーヴァスさんに、トンネルの中を進むよう伝える。彼は、何の問題もなくトンネルの中を通りぬける。

 全員が潜りぬけたところで、トンネルは消しておいた。


『(; ・`д・´) ご主人様ー、何かに取りかこまれてる』


 ◇


 俺たちは、森の中で透明な何かに包囲されていた。


 俺が、前に出て両手を挙げる。攻撃の意思が無いことを示すためだ。


「それ以上、前に出るな!」


 甲高い声が聞こえた。


「私たちは、調査に来ただけです。

 あなたたちを、攻撃するつもりはありません」


「調査? 

 いいかげんなことを言うな」


 少し前の空間が揺らぎ、何かがこちらに飛んでくる。

 しかし、それは既に展開してあった点ちゃんシールドに当たり、地面に落ちた。

 よく見ると、矢の様だ。長さが三十センチほどしかないから、吹き矢かもしれない。


「話だけでも聞いてほしい」


 俺は、ゆっくりと話しかける。

 多くの甲高い声がする。何か、話しあっているようだ。

 そのとき、リーヴァスさんが話しかけた。


「あなた方は、フェアリスではありませんかな」


 甲高い声のおしゃべりが大きくなり、俺にも聞こえる。


「なんで人族が私たちの事を知ってるの?」

「どうして、ここがばれちゃったの?」

「どうしよう。

 大変なことになっちゃった!」


 俺は、彼らの不安を消すため、慎重に言葉を選んだ。


「私たちは、あなた方の生活をおびやかすつもりはありません。

 本当に調査だけが目的です。

 あなた方が望まないなら、ここの事は絶対に外部に漏らさないと約束します」


 しばらく、甲高い声同士のおしゃべりが続いた。


「人族の言葉は信じられない」


 リーヴァスさんが、もう一度話しはじめた。


「あなた方の中に、『キャロ』という名をご存じの方はおられぬかな?」


 甲高いおしゃべりが高くなる。


「キャロ! 

 いなくなったあの子のことを、どうして知ってるの?」

「フィロさんを連れてきて」


 少しすると、やや低い声が聞こえてきた。


「あなた方が、どうして娘の名を知っているのです?」


 リーヴァスさんが、それに応える。


「十年前に、『東の島』南部で倒れているところを助けました」


「十年前! 

 あの子がいなくなった頃だ……」


 少し、沈黙が続いた。


「あの子は……あの子は、生きているのですか?」


「ええ、元気ですよ。

 パンゲアという世界でギルドマスターを任されています」


「キャロが生きていた……」


 声が嗚咽おえつに変わった。

 甲高い声のおしゃべりが少し続いた。 

 声の調子で、彼らが、先ほどより落ちついてきたのが分かる。


 突然、俺たちの前に隠れていたものが姿を現した。

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