第15話 魔獣襲来


 俺が部屋の壁に展開したスクリーンには、四分割された映像が現れる。

 全てに、魔獣が移動している映像が映っている。


 魔獣の数が余りに多いので、茶色い波が動いているように見えた。

 音声も入っているから、不気味な唸り声や鳴き声が室内に響く。

 何より、太鼓を打ちならすような不気味な足音が恐怖を誘う。


 部屋にいる全員が、顔色を失った。

 おっと、全員かと思ったが違ったようだ。


「お馬さんが、いっぱいいるー!」

「うわー!」


 ナルとメルが無邪気に笑っている。

 俺は、ある案を思いついたので、小声でルルと話をした。

 二人の意見がまとまると、再び立ちあがり、発言を求める。

 映像は、消してある。 


「とにかく、皆さんは、王城東側の住民を逃がしてください。

 あと、戦力があるなら、王城東側に集めた方がいいでしょう。

 少し思いついたことがあるので、私たちは、それを試してみます」


「おお、そうか。

 シロー殿、こたびも力になってくれるか。

 誠に、感謝のしようもない」


「まあ、上手くいくかどうか、まだ分からないですよ。

 とにかく、私たちは、すぐに出発します」


 連絡用にリーヴァスさんとコルナを城に残し、俺とルル、ナルとメルだけで庭園に集まる。

 木立の影で、さらにシールドで周囲から見えないようにすると、縦三メートル、横二メートルくらいの、大きなボードを出す。

 座席を二つ設置し、ボード全体を覆うように風防をつける。

 色は、白銀色にしておいた。


 側面をドア型に開き、俺とルルが先に乗りこむ。

 俺が中から手招きして、二人の娘も乗せる。

 ナルはルルの、メルは俺の膝に落ちつく。


「じゃ、お馬さんを助けにいくかな」


「助けるー!」

「いこー!」


 まあ、二人にとっては遊び感覚だろうね。

 俺はドア部分を閉じると、ボードを浮上させる。


「二人とも、お馬さんが悪い子になってるから、いい子になるように言ってやってね」


「「分かったー」」


 俺は、ボードを浮上させ、東に向け飛行させた。


 ◇


 俺たちが乗ったボードが森の上空を飛んでいくと、前方に茶色い帯が見えてきた。

 

 茶色い帯は、思っいていたより王都の近くまで来ている。

 魔獣が立てる土埃つちぼこりが帯状になっているようだ。


『(^▽^)/ ご主人様ー、出来たよー』


 透明な風防の左上に点ちゃん特製のマップが現れる。

 中心にボードが緑の三角形で示されており、その前には紅い点が帯状に広がっている。

 紅い点は、魔獣一匹ずつを示している。


「じゃ、行くよ」


 俺はボードの高度を下げ、地上から十メートルくらいの所を飛ぶよう設定した。

 念のため、ボードにはシールドを二重に張ってある。

 魔獣が形づくる帯の真上に差しかかる。

 高度が低いから、魔獣が一匹一匹はっきりと見える。


「みんなー、いい子になってー」

「いい子、いい子ー」


 二人が、魔獣に呼びかけている。

 声は届かないはずだが、魔獣の動きが止まる。画面の点が、赤から青に変わる。

 どうやら、上手くいきそうだ。俺は、ルルに向けて頷いた。彼女も微笑みかえす。


 俺たちが乗ったボードが進む。

 画面では、広がった赤を切り裂くように青が広がっていく。

 それほどかからずに、ほとんどの赤点が消えてしまった。


「二人とも偉いぞ。

 お馬さん、みんないい子になったよ」


 俺が褒めてやると、二人が得意げな笑みを浮かべる。

 俺とルルが、それぞれの頭をなでてやると、満足そうにしている。

 二人は地上に降りて「お馬さん」に乗りたがったが、さすがに今回は勘弁してもらった。


 城に帰り、庭園に降りようとすると、多くの人がそこで手を振っているのが見えた。

 飛行能力は隠しておきたかったが、こうなっては仕方がないね。


 ◇


 ボードを城の庭園に降ろすと、コルナが駆けよってくる。


「「コー姉!」」


 ナルとメルがコルナに抱きついて、「いい子、いい子したんだよー」と、自分たちの仕事を自慢している。


 コルナもニコニコ顔で、二人の頭を撫でてやっている。

 コルナと二人の子供が、城内へと歩きだすと、庭園に出てきた貴族や騎士から、拍手が沸きおこった。

 ナルとメルは自分が拍手されていると思っていないからか、堂々としたものだ。


 城からエルフ王が出てきた。

 俺が声を掛ける前に、彼は三人に近づいた。

 ナル、メルと何か言葉を交わしているようだ。


 驚いたことに、陛下は、二人の前に片膝をついた。

 片手ずつ、ふたりの手を取り、頭を下げている。

 それは誇り高きエルフの王様として、信じられないほどの行為だった。

 しかも、二人の間にはコルナがいるから、獣人にも頭を下げた形となる。

 貴族からどよめきが上がったが、称賛の拍手の方がそれを打ちけすほどに強くなった。


 コルナ、ナル、メルが城内に入った後も、しばらくは拍手が鳴りやまなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る