第3部 毒と王女

第9話 エルフの王


 次の日、豪華な朝食が部屋に運ばれた後、騎士が部屋を訪れた。


「リーヴァス殿、シロー殿、コルナ殿、少しお時間をよろしいでしょうか」


 俺たちは、ルルにナルとメルを任せ、騎士の後についていった。

 入りくんだ通路は、上方へ向かっているようだ。

 およそ十五分ほど歩き、昨日より小さいが、やはり金色の扉の前までやってきた。扉の左右には、剣を腰に差した騎士が控えている。

 俺たちを連れてきた騎士が呪文を唱えると、扉が音もなく開く。


 中は、三十畳ほどの広さがある居室になっていた。

 深緑色を基調にした、落ちついた内装だ。広い窓があるが、今はカーテンが閉められていた。部屋の中央に天蓋付きの寝台があり、エルフの男性が横になっている。

 寝台の脇には、お后とモリーネ姫がいた。


「よく来てくれました」


 お后が俺たちに声を掛け、手まねきする。

 寝台の足元で、リーヴァスが膝をついたので、俺とコルナもそれにならう。

 弱々しいが、威厳ある声が、頭の上から聞こえた。


「その方らが、モリーネを助けてくれたのじゃな」


「はっ。

 陛下、お久しぶりでございます」


「おお、リーヴァス、久しいな。

 そのおりは、世話になった。

 そちに助けられるのは、二度目じゃな」


「恐れ多いことでございます」


「この場では、遠慮することはない。

 かつてのように、友人として接してくれ」


「はっ」


 リーヴァスさんが、立ちあがる。

 俺とコルナは、ひざまずいたままだ。


「お父様、コルナと話してもよろしいかしら」


「おお、お前の友人であったな。

 別室で話すとよい」


「ありがとうございます」


 モリーネ姫はコルナを立たせると、二人で扉から出ていった。


「シローとやら。

 お主がモリーネを救ってくれたそうじゃな。

 このとおり感謝する」


「はっ」


「おおよそのことは、ミーネから聞いた。

 ようやってくれた」


 ミーネとは、お后の名だろう。


「いえ、私がモリーネ様を助けたのは、行きがかり上たまたまでございます」


「ははは、まあ、謙遜するな。

 しかも、この国に来てからも襲撃を退けてくれたそうではないか」


「恐れながら、それはリーヴァス殿の働きでございます」


「よいよい。

 ところで、不思議な魔術を使うそうじゃな」


「はっ」


「その魔術は、治癒もできるか?」


「ある程度は、可能でございます」


「そうか。

 すまぬが、我にそれを試してくれぬか」


「仰せの通りに」


 俺は、不安そうな表情を浮かべるお后の前で、点魔法を使った。

 点ちゃん、王様の具合を調べてくれる?


『(^▽^)/ はーい』


 点ちゃんがチカチカしている。すぐにそれが止まった。


『(Pω・) ご主人様ー。

 この人、毒を飲まされてるよ』


 なにっ! 病気じゃないのか。

 点ちゃん、何とかできそう?


『(・ω・) とりあえず、応急処置しておくー』


 頼むよ。


『(・ω・)ノ でも、毒を飲むのをやめないと、また悪くなるよ』


 それもそうだね。じゃ、王様が、どうやって毒を盛られているかも調べよう。


『(^ω^) 分かったー』


 そのことをお后に報告することにする。陛下に聞かれないように、部屋の隅に下がり、お后に来てもらう。


「シロー、どうかしましたか?」


「お后様、陛下に聞こえぬよう、小声でお願いします」


 王様が興奮して、容体が悪くなってもいけないからね。


「どうしたのです」


 お后がささやく。


「陛下は、毒を盛られております」


「なっ!」


 お后が、慌てて口を押える。


「どういうことです?」


 再び、声を落として話しかけてくる。


「いったん治療しますが、また毒を飲めば同じことです。 

 しばらく、私を陛下の側に居られるようにしてください」


「分かりました。

 頼みますよ。

 あなたが、最後の頼りです」


 俺とお后は、ふたたび寝台の横へと戻った。

 俺は、陛下のお身体へと手を伸ばし、治癒魔術を掛けるふりをする。

 分裂した点ちゃんが、いくつか光りながら陛下の体に入っていく。陛下の身体は、しばらくあちこちが光っていた。

 光が収まると、陛下が大きく息をつく。


「ふう~、凄まじい効果だな。

 体の痛みとだるさがほとんど消えたぞ」


 陛下はそう言うと、上半身を起こした。お后が、慌ててその体を支える。

 陛下は、青かった顔に少し赤みが差している。


「陛下、この病は、一度の治療では完治しませぬ。

 繰りかえし治癒魔術を掛ける必要があります」


「おお、それならそのように取りはからってくれ。

 ミーネ、頼むぞ」


「はい、陛下」


 俺は、ミーネ王妃といくつか打ちあわせを済ませ、王が寝ている部屋の隣部屋に控えることにした。

 リーヴァスさんには、ルルへの伝言を頼んでおいた。まあ、念話してもいいんだけどね。いつも念話じゃ、味気ないじゃない。


 まず、俺が控えることになる隣部屋を調べてみる。


『(^▽^)/ ご主人様、大丈夫だよー』


 盗聴装置の類は、無しと。

 俺は、入り口を点魔法でロックし、映像用のパネルを出した。今回は、陛下の寝室全体がよく見られるよう、大画面にしてある。

 一メートル四方ほどのパネルを壁に固定し、自立型のハンモックを出す。

 さっそく、そこに横になり、くつろぎの体勢を取った。


 くつろぎながら、一国の王を見張っていいのかって?

 まあ、いいんじゃないの?

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