第26話 証拠


 巨大な半球状の建造物は、円形の底面をゆっくり広場に接触させた。


 膨大な質量が動いたはずなのに、地面がピクリとも揺れない。

 ここにきて、法廷内の他の人々も、その建造物に気づきはじめた。


「な、何だ、あれは!」


 賢人達は、それが何か知っているので、顔色(がんしょく)を失っている。

 そ、そんな馬鹿な! どうやって?

 五賢人は、その知性が邪魔をし、余計にこの光景を信じることができなかった。


「あなたが、求めていた証拠です」


 ポルナレフは、証拠を求めていた賢人の顔へ、つき刺すように指を向けた。

 その時、裁判長の背後にある壁に、突然、巨大なスクリーンが現れた。


「えー、テス、テス。

 あれ? 

 これ、もう音が入ってるの?」


 法廷内の緊迫した状況に似合わない、間が抜けた大きな声がした。スクリーン上に映ったのは、猫人族の少女だった。


「えー、こちらパーティ・ポンポコリン所属、ミミです。

 獣人世界のギルドからの依頼で、この放送を行っています。

 え? 

 そんなに大きな声でなくても大丈夫? 

 失礼しました。

 では、音量は、このくらいで」


 法廷内の人々は、あまりのことに、あっけにとられ、ポカーンとしている。

 自分のことをミミと名乗った少女は、マイクを右手、何かの魔道具を左手に、後ろの壁の方を向いた。

 映像が、広角に切りかわる。

 少女は、半球状の建造物の前にいた。


「では、これから、この秘密施設の中に入って行きますね」


 どうやったのか、半球状建造物の壁が音もなく円形に切りとられ、それが外に倒れた。


「さあ、お見逃しなく」


 ミミは、どんどん建物の中心に向かって進んでいく。

 やがて通路が終わり、やはり半球状の空間に出た。

 底面をぐるりと取りかこむように並ぶ部屋の窓が見える。


「では、こちらの部屋から、見ていきましょう」


 ミミは、左回りに施設を回るようだ。


「おお!

 これは、なんということでしょう。

 沢山のカプセルが置かれています。」


 最初の部屋には、ずらりとカプセルが並んでいた。


「では、部屋に入ってみましょう」


 クリスタルガラスが、ドア型に綺麗にくり抜かれる。

 ミミは、そこから中に入っていった。

 カプセルを見下ろす映像が映しだされる。

 一部、透明なカプセルから見える顔は、さっき証言をした少年と同じ種族のようだ。


「まあ! 

 何ということでしょう。

 狸人がカプセルの中に捕らえられています。

 このパイプは……なんと、狸人の血が流れているようです」


 映像は、カプセルに横たわる狸人を、次々と映しだしていく。


「さあ、次の部屋に行ってみましょう」


 少女は、次々と部屋を回っていく。

 そこに映される衝撃の映像は、人々を驚愕と恐怖に陥れた。

 耐えきれず、大法廷の隅で吐いている者までいる始末だ。

 しかし、誰もそれをとがめる者はいない。


 少女は、足早に実験室を回ったが、それでも一時間近くはかかった。最後の部屋を出ると、画面に向かって挨拶をした。


「さあ、いかがでしたでしょうか。

 提供は、獣人世界、ケーナイのギルド。

 協力は、獣人議会の皆様でした。

 あ、忘れてた。

 お伝えしたのは、ケーナイのギルド所属、ミミでした。

 目下、売り出し中、私のパーティ「ポンポコリン」も、どうかよろしく。

 では、またお会いしましょう。

 さよなら、さよなら、さよなら」


 ミミがこちらに手を振る画像を最後に、スクリーンが暗くなる。

 凍りついていた人々が、動きだした。

 それは、賢人も同様だった。


「その施設と我々が関係あるという証拠はあるのか?」


「正式な手続きを踏まない証拠など、無効だ!」


 賢人たちが被告人席から飛びだし、裁判長に食ってかかっている。

 そのとき、また法廷内が静まり返った。


 再び、スクリーンに映像が映しだされたのだ。

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