第22話 カウントダウン
加藤が招かれている式典がある日まで、俺は点ちゃん1号で、原生林地下の秘密基地の調査を行った。
調べれば調べるほど、その研究内容の非人道性、残虐性が浮かびあがってくる。それは、育ちざかりである俺の食欲を失わせるほどだった。
ソネルを逃がした方法は、いまだにばれていないようだが、これだけ長期間調べても見つからないとなると、外に逃げたのではないかと疑う者が出はじめていた。
もし、『賢人会』がそれを確信したら、秘密施設を抹消しにかかるだろう。
全てのタイマーが、カウントダウンを始めていた。
◇
複数あるパルチザンの施設には、非戦闘員の獣人が数名ずつ配置されていた。
一人一人が、決行当日、予定されている行動に備え準備していた。
ダンは各施設を回り、そのチェックをするとともに、戦闘員が行う行動についても準備を始めていた。
パルチザンは、今回の行動に全ての資金、人員を投入している。もし、失敗するようなことになれば、組織として継続することは難しいだろう。
たとえ成功しても、その存在意義は失われるのだから、この組織の寿命もあとわずかということになる。
ダンは、自分の居場所が失われる心細さを感じていた。
◇
決行前日、俺は、加藤とコルナに最後の指示を出していた。
当日、俺は加藤と共に行動するが、コルナはパルチザンの本部に詰めることになっている。これには、人質としての意味合いもある。
今回の計画で、おそらく最も危険な部分にコルナを配置したくはなかったが、彼女自身がその役を買ってでた。
コルナには、点ちゃんを複数付けてあるから、万が一もないだろうが、油断すると何があるか分からない。
マスケドニア国で起こった出来事で、俺は、そのことを嫌というほど思い知らされていた。
そのためにも、今回は、ありとあらゆるモノ、場所に点をつけてある。
頼りにしてるよ、点ちゃん。
『(・ω・)ノ は~い』
ま、点ちゃんは、いつもの調子だよね。
俺は、そのことに、なぜか安心を覚えるのだった。
◇
学園都市成立三百年の祭典に先駆け、式典が開催される日が来た。
俺は、頭に羽根付きの幅広帽子をかぶり、サングラスをつけている。
怪傑ゾ〇っぽいイメージにしてみた。パルチザン本部に向け、出かけるところだったコルナには、口ひげまでつけるのは、やり過ぎだと叱られた。
『(^ン^) ご主人様とお揃い~♪』
点ちゃんが、喜んでくれてるんだから、いいんじゃない?
住居前に、金色の紋様が付いた、大きなカプセルが着く。加藤と俺は、首席秘書ロイの案内でカプセルに乗りこんだ。
六人乗りのカプセルは振動もなく、すごい勢いで走行した。どういう仕組みか知らないが、他のカプセルは、道の端に避けて停まっている。
まるで無人の野を行くように、カプセルは、一気に中央区までやって来た。一時間も、掛かっていない。ということは、時速二百キロ以上出ていたことになる。このあたりは、さすが学園都市だね。
カプセルは、馬鹿げた広さの前庭を持つ建物の前に停まった。
俺と加藤がカプセルを出ると、ドレスを着た、エスコート役の女性が二人立っていた。
それぞれに腕をとられ、加藤、俺の順で、建物への階段を上がっていく。
通り道には、金色で縁取られた、黒いカーペットが敷かれていた。
黒のカーペットとか、地球の式典では絶対に無いな。そんなことを考えているうちに、大きな白い扉の前まで来た。
中で音楽が始まると、その扉が開き、俺たちが中へ招き入れられる。円形のホールには、着飾った多くの人が座っていた。
きっと、この都市の支配層なのだろう。
ただ、『賢人』は、一人もいないようだ。
彼らに付けた点には、タグがついている。賢人であれば、その人物の頭上にタグが表示されるから、見ればすぐに分かるのだ。
胸に多くの飾りを付けた初老の男が、舞台中央の演台に立っている。その男が大げさな身振りで参列者に話しかけた。
「めでたき日にふさわしく、黒髪の勇者様がいらっしゃいました。
どうか拍手でお迎えを」
拍手はお義理のものでなく、熱狂的なものだった。ポータルズ世界で黒髪の勇者がいかに人気があるか、改めて知らされた。
加藤が手を上げ、拍手に応えると、人々の歓声が上がる。
「「「勇者! 勇者! 勇者!」」」
加藤と俺が演台の後ろに用意された席に座り、初老の男が両手を上げると、群衆は静かになった。
「では、勇者様を迎えた今こそ、式典のカウントダウンに入りましょう」
会場の奥の壁面は、巨大スクリーンになっている。そこには、この世界で「10」を意味する文字が、大きく映しだされていた。
「では皆さん、ご一緒に」
司会役の男の合図で、唱和が始まる。
「「10」」」
画面の文字が9になる。
「「「9」」」
数字がどんどん減っていき、とうとう「1」となった。
「「「1」」」
「「「ゼロ!」」」
周囲に控えていた音楽隊が、一斉に音を奏ではじめる。
「三百年祭開始……?」
司会の男が絶句する。
なぜなら、巨大スクリーンに映しだされたのは、ここで上空から映すはずだった学園都市全景ではなく、薄暗い部屋にいる一人の年老いた獣人の姿だったからだ。
どの参列者も、あ然とした表情をしている。
人というのが、驚くと本当に口をポカーンと開けるんだなあと、俺は妙に感心していた。
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