第3部 勇者との再会
第8話 学内調査開始
やたらと豪華な待機部屋に案内した後、スーシェは、俺を教室まで連れてきてくれた。
筆記試験会場と同じ造りの教室は、百人くらい座れそうだ。
おれは、教室中央に一つだけ空いた、大きなサイズの机に着いた。
スーシェが教壇に立ち、話しはじめる。
「それでは、自習は終わりです。
シートを用意して下さい」
えっ!? この生徒たち、俺のために自習してたの?
『(@ω@) な、なんじゃそりゃー!』
……点ちゃん。
ああ、点ちゃんが、変な言葉を覚えちゃったじゃないか。これは、やっかいだぞ。
「今日は、途中参加の新入生もいるので、魔術詠唱法の授業をおさらいしておきましょう」
スーシェ先生は、そう言うと、黒板のような表示板に触れ、どんどん資料を開いていく。
黒板は、大きなシートで出来ているようだ。
俺は、なぜか自分だけ、椅子がふわふわのソファー仕様だったこともあり、夢の国へと旅立った。
授業終了の鐘で、目が覚める。
スーシェ先生は、既に教室を出ていくところだった。
最初、俺の方をこわごわ見ていた生徒たちだが、赤髪の少女が話しかけてきたのをきっかけに、一気に周りへ集まってきた。
「あんた、受験でトップだったでしょ?」
そして、あなたは信号機、ぷぷぷっ。
ちなみに、俺は、初対面で馴れ馴れしい人間など、絶対に信用しないって決めている。
「このトリビーナ学園始まって以来、最高点を取ったらしいわね」
ト、トリビーナ学園!
俺が勝手につけた名前、「聖トリビア学園」とそっくりじゃん。
俺は笑いのツボを突かれ、思わず笑いだしてしまった。それを見た他の生徒は、ギョッとしただけだったが、赤髪の少女は、そうはいかなかった。
「あんた!
人が話してるのに、笑うって失礼でしょ」
初対面で「あんた」呼ばわりする方が、失礼だと思います。
興味が無い少女の事は放っておき、シートをタップする。
新入生用に送られた情報データを開き、目を通す。
それを三十分ほどで読みおえると、俺の周囲には、赤髪の少女しかいなかった。
あれ? 俺、ここでもマイペース貫いちゃった?
時間を見ると、昼食時なので、俺専用の待機部屋に向かう。
待機部屋は呼びにくいから、とりあえず「タイタニック」と名づけておく。
タイタニックの扉を開けると、なぜか赤髪までついてきてしまった。
「な、何、この部屋!?」
『(@ω@) な、なんじゃこりゃー!』
そんなこと言うから、点ちゃんが、またやっちゃったじゃないか。
「何って、俺の部屋だけど?」
「あ、あんた、一体何者なのよ!?」
「ただの冒険者だけど?
あ、今は、ただの学生ね」
俺はそれだけ言うと、どっしりした机の上に置いてある冊子に目を通す。
お! この部屋って、上級職員用の食堂から食事のデリバリーしてくれるのか。でも、「上級」って、なんだろう?
うへー、洗濯とか掃除もしてくれるんだね。
高級ホテル並みだな。
今度、ぜひ、ポルを連れてきてやろう。
何かぐじゃぐじゃ言っている少女を無視し、俺は食事のデリバリーを頼むのだった。
◇
食事は前菜とスープで始まる、かなり本格的なものだった。
味も、まずまずだ。
デザートを食べおえると、少し眠くなってきた。本来、ここで昼寝するのが俺流なのだが、今はすべきことがある。
あれ?
赤髪がハアハア言って、ソファでぐったりしている。
「あれ、赤髪、どうしたの?」
俺は、思わず心の中で使っていた名前を口に出してしまった。
「赤髪ですって!
私には、コーネリアっていう、ちゃんとした名前があるの!」
プンプン怒っているが、こっちは知ったことではない。
「初対面の人に向かって、あんた呼ばわりし続けた人のセリフとは思えないね」
俺は、食後のお茶を飲みながら、指摘してやった。
「『あんた』、俺の名前、一度でも口にしたか?」
赤髪は、キィーッと叫ぶと、髪を掻きむしり、部屋から飛びだしていった。
くつろぎを信条とする俺が、最も近寄りたくないタイプだな、あれは。
教室へ帰ると、クラスメートにいろいろ尋ねてみた。
どうも、黒髪の少年に関する情報は無いようだ。
放課後、すぐ受付に行き、黒髪の少年のことを尋ねる。今度は、こちらが学生だということで、検索に応じてくれた。
「カトーあるいはカトウという名前に該当するものは、このトリビーナ学園に二十四名在籍しています。
そのうち、十六歳から十八歳の生徒が六人いますが、いずれも黒髪ではありません」
ということは、ここまでの調査は外れか……。
となると、錬金術地区か。賢者の石でも狙ってるのか、加藤は?
いや、やっぱり、あいつに限って、そういう思考をするとは思えない。
これまでに得られた情報を元に、もう一度、考えてみよう。
ところが、加藤への糸口は、思わぬところからもたらされた。
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