第40話 新しい家族


 コルナは、じきにウチに馴染んだ。

 ナルとメルはコルナが大好きで、庭を一緒に駆けまわったり、モフモフさせてもらったりしている。

「こーねー、こーねー」(コルナお姉ちゃん)と言いながらまとわりつく。


 子供部屋を覗くと、二人がコルナに抱きつくようにして昼寝していることもある。そんな時、いつもは子供たちと寝ているじーじ(リーヴァス)が少し寂しそうだ。


 ミミとポルはギルドに宿泊しており、小さな依頼を次々とこなしているようだ。ときには、ハピィフェローの討伐について行ったりしている。

 迷惑を掛けてないといいけどね。

 聖女舞子が家に遊びに来て、キツネやゴリさんが失神するという、お決まりの光景も見られた。


 俺が家に帰ってきて、二週間がたとうとしていた。

 夕食を終え、コルナを含めた全員がそろっている席で、俺は『学園都市世界』へ行くことを告げた。

 最初から分かっていたことだったので、ルルは落ちついて話を聞いてくれた。納得できなかったのは、ナルとメルだ。

 一度俺が長いこと家を空けたからだろう。二人は、泣いて嫌がった。俺は二人が泣きやむまで抱いてやり、友達を助けるために行くのだと説明した。

 なかなか納得しない二人に、ルルが寄りそった。


「パーパは、いつもおウチに帰ってくるでしょ。

 マンマと一緒に待とうね」


 そう言うと、ルルは娘たちを抱きよせた。

 ナルとメルは、やっと泣きやんでくれた。


「リーヴァスさん。

 また三人、いや四人をお任せすることになりますが……」


 俺は、リーヴァスさんにも旅に出ることを伝えた。


「ルルも納得していることです。

 後はお任せを」


 リーヴァスさんは、変わらず頼もしかった。またも力を借りることになり、お礼の言葉にも困った。


うちをお願いします。

 なるべく早く帰ってきます」


 俺は、ただただ頭を下げるのだった。


 ◇


「さて、この世界から『学園都市世界』へ渡るポータルはどこかな?」


 コルナが、ギルドでもらった地図を広げている。ふさふさ尻尾しっぽがパタパタしている。


「ここがこの国だから、その西隣りの国、このマスケドニアだよ」


 俺が地図を指さして説明する。


「ふーん、近いの?」


「陸路を歩くなら、二日か三日。

 船だと一日か二日かな」


「じゃ、すぐね」


 コルナの三角耳が、ピクピクしている。もしや……。


「あのー、コルナさん」


「何?」


「まさか、一緒に行くなどとは――」


「行くに決まってるでしょ」


 勘弁して下さい。ミミとポルの世話だけで、もう手いっぱいです。


「あのー、ちょっとそれは無理かと……」


「あのね、もう、ルルとも約束したの」


 いつの間にか、「ルルさん」から「ルル」に、呼び方が変わっている。


「や、約束って、何を?」


「シローが浮気しないように見張るって」


 ええーっ! 俺の浮気が前提ですか。

 こりゃ、とんでもなく大変な旅になりそうな予感がするぞ。


 ◇


 出発前日には、ミミとポルが俺の家へ挨拶にやってきた。


 いつの間にか、コルナが家族として振まっているので、二人は驚いていた。まあ、彼女は狐人族の元族長であり、獣人会議の議長まで務めた偉い人だからね。


 ナルとメルは、ポルを大きなお人形か何かと思っているらしく、やたらと彼の体を、あちこち触っている。

 尻尾しっぽを触られとポルがくすぐったがると知ると、二人して彼の尻尾を狙っている。

 逃げるポルの後ろをナルとメルが追いかけぐるぐる回る、という光景が見られたが、狸人がドラゴンに勝てるわけがない。

 疲れはて、きゅ~っと床にうつ伏せになったポルの上に二人が座り、キャッキャッと尻尾で遊んでいる。


 ミミは、リーヴァスさんをキラキラうっとりした目で見ている。まあ、彼がモテるのは分かるが、年の差ありすぎだろう。


 ミミとポルが、とりあえず家族に受けいれられ、ほっとした。


 ◇


 俺はルルを庭に呼ぶと、飛行艇型の点ちゃん1号で空高くまで上がった。

 点ちゃん1号の壁は、夜景が見えるよう透明モードにしてある。


「ルル……」


「シローさん……」


「帰ったとき、家の玄関で君を見て本当に驚いたよ。

 ルルは、どんどん綺麗になっていくね」


「えっ……」


 ルルは、まっ赤になり、うつむいてしまった。


「本当は、ずっと君を見ていたいよ」


「……」


 俺は、ルルをぎゅっと抱きしめる。

 この瞬間のため、必ずここへ戻ってくる。

 二人を照らす月の光は、いつもより少しだけ眩しかった。

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