第16話 獣人族長会議(上)


 俺たちが狐人族領に着いて三日目の夕方、予定通り族長会議が開かれた。

 会議場はお城にある広い部屋で、円形に机が並んでいる。

 各部族の代表のうち三人が椅子に着き、残りが後ろに控える。犬人族の机は、アンデ、ギルド職員、俺が席についた。


 会議場を見渡すと、様々な獣人の姿がある。

 特別あつらえの大椅子に、巨体を無理やり押しこむように座っているのは、熊人族だろう。

 椅子に座らず、香箱座りしているのは、虎人族か。

 その隣には、虎人族のミニチュアのような猫人族が座る。

 狐人族は、中央にコルナが座っており、その右には、昨日案内してくれた文官の姿がある。


 一つ空いていた猫人族の椅子へ、白いあご髭を垂らした獣人が杖をつきながら近づくと、場がざわついた。


「ほう。

 さすがに今回は、賢者も関心があるのだな」


 アンデの言葉通りなら、猫人族の賢者なのだろう。


「では、族長会議を始めてもよろしいかな」


 コルナが、威厳のある声でそう言った。


「ちょっと待ってくれ」


 待ったをかけたのは、虎人族の中央に座っていた男だ。


「なんじゃ、ドラバン」


「なぜ、この場に人族がいる?」


「それもそうだ。

 なぜだ?」

「けっ。

 なんで、そんなヤツを」


 虎人族の発言に、同調する声が上がる。

 それに力を得たドラバンがさらに畳みかける。


「おい、アンデ。

 きちんとした説明があるんだろうな」


 アンデは、背筋を伸ばし堂々とした態度だ。


「ああ、あるぞ。

 この者は、シロー。

 パンゲア世界から来た。

 女王陛下からの推薦状もある」


「女王ったって、たかが人族だろうが。

 この場にふさわしくねえな」


「この会議を開くに至った事件で、証人を見つけたのがこの男だ」


「それがどうした。

 なんなら俺が、そいつをここから叩きだすぜ」


「やめておけ。

 こいつは、金ランクの冒険者だ」


 場がどよめく。


「人族の金ランクなんてゴミだぜ。 

 見てろよ。

 今、放りだしてやる」


 虎人の男が円テーブルの縁を回り、こちらに近づいてくる。

 俺がアンデの方を見ると、彼は目を閉じ一つ頷いた。

 俺は席を立ち、近づいてくる虎人ドラバンを待った。


 俺から五メートルくらいの位置で一度立ちどまったドラバンが、ニヤリと笑う。

 かと思うと、いきなり猛烈な勢いで、こちらへ突っこんできた。助走も予備動作も無しだ。太い腕の先に着いた、バレーボールほどもある拳が、俺の顔面をとらえた。


 グシュ


 異様な音をたて、潰れた。

 ヤツの拳が。


「グアアアッ」


 ドラバンは、床に倒れると自分の手首をつかみ、うなっている。

 物理攻撃無効。

 前にいた世界でドラゴンからもらった力だ。ポータルを越えても健在だったな。

 会議場はヤツのうなり声を除き、静寂に包まれていた。


 コルナがトコトコ近づいてくると、魔術を唱える。治癒魔術のようだ。床を転げまわっていたドラバンの動きが止まる。まだ、起き上がることはできないようで、横たわったまま、荒い息をついている。


「ドラバンよ。

 この者は、私の賓客でもある。

 次は、許さぬ」


 小さな狐人の少女が、凍えるような声でそう告げると、ドラバンの顔色が青くなった。


「ニャニャニャ、愚かよな。

 相手の力をまず知れ」


 猫賢者が、変な笑い声を立てている。

 アンデが静かな声で問う。


「まだ、この男がこの場にふさわしくないと思う者はいるか?」


 それに答える者は、誰もいなかった。

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