第12話 ゴブリンキングの討伐報酬

 しばらくの間、ルルは俺に覆いかぶさったままだったが、いつまでたっても剣が落ちてこないから、やっと顔を上げた。


「旦那様……生きてる」


 震える両手で、俺の頬に触れる。

 涙で濡れたルルは、とても綺麗だった。

 口の端についた血を、手で拭ってやる。

 ルルは俺の胸に顔を埋め、泣きだした。


 ダンを肩で支えたブレットが側に来た。


「生きのびたな」


 短い一言に全てが込められていた。


「ナルニス、お前の魔術か?」


「いや、僕じゃないよ」


 ブレットは、しばらくゴブリンキングの巨体のあちこちを調べていた。


「うーん……。

 分かんねえ」


 どうやら、キングの死因が分からないらしい。

 とにかく、この周囲の戦闘は終わったようだ。

 俺たちが地面に座りこんでいると、冒険者を引きつれたマックが現れた。


「こ、これはっ!

 ゴブリンキングかっ!!」


 冒険者たちがどよめく。


「ブレット、お前がやったのか? 

 大手柄だな」


「そんなわけないでしょ。

 俺は、銀ランクですよ」


「そんなこと言ったって、目の前に死体が転がってるじゃねえか」


「いやあ。

 それが、こいつ、突然ころっと死んじゃったんですよ」


「魔術じゃないのか?」


「いえ、そうじゃないみたいです」


 その後、マックもしばらく死体を調べていたが、やはり死因が分からず首をかしげていた。

 抱きついたルルを引きはなすのに少し苦労したが、手を繋いでやるとやっと俺の上から降りてくれた。


 パーティがそれぞれ討伐部位を切りとった後、死体を集めて火をつけた。討伐数の少なかった二つのパーティが、念のため後に残った。

 森に火が燃えうつってもいけないからね。

 家屋もすべて倒し焼やす。放置しておくと、またゴブリンが集落を作るそうだ。


 ゴブリンキング討伐の栄誉は、ハピィフェローのものとなった。

 皆、疲れ切った身体と生きのびた喜びとともに帰路についた。


 カラス亭に着くまで、ルルは繋いだ手を離さなかった。


 ◇


 ゴブリン討伐から一週間は、服を買ったり、装備をメンテナンスに出したり、細々したことをするうちに過ぎていった。


 ハピィフェローが討伐の報酬を七等分してくれたので、金額はかなりなものになった。

 特にゴブリンキングの報酬は、一体で金貨百枚。日本円に換算すると、約一億円。他の報酬と合わせると、七分の一でも一財産と言っていい金額だ。


 ルルと話しあい、二人の報酬を合わせ、家を買うことにした。外壁近くなら、予算で十分大きな家が買えるそうだ。

 ということで、さっそく土地と家を扱う、地球で言う不動産業者のような店に来ている。


「どのような条件でお探しで?」


 卵型の体形で、ちょびひげを生やしたおじさんだ。ベルギー人の探偵っぽい。


「金貨二十五枚まででお願いします。

 家の大きさにはこだわりません」


「ご希望の地区はございますか?」


「いえ。

 とりあえず、条件が合う物件は、全部見てまわろうと思います」


「少々お待ち下さい。

 こちらとこちら、あと、こちらもございます」


「見せてもらってもいいですか」


「どうぞどうぞ」


 文字を読むのはルルまかせだが、何枚かには絵が描いてあり、それなら分かるので見比べてみる。日本とは違い、間取りではなく外見だけ描いてあるのが面白い。

 間取りは、文字で書いてあるそうだ。

 ルルが治安のあまり良くない地区の物件をはじき、残りの物件は説明書をそのまま借りうけた。


「返却は、三日以内でお願いします」


「分かりました。

 お世話になります」


 店を出ると、近い家から一軒ずつ下見する。

 最初の物件は、余りにも古くて修理が必要だからボツ。

 二軒目は、窓から城が見えるから精神的にボツ。

 三軒目は、ギルドに近く、4LDKの平屋で大きさも手ごろ。これは保留。

 四件目は、二階建てで、三軒目に比べるとかなり小さい。広い庭がついている。保留。

 五軒目は、部屋数が多すぎて管理できそうにないのでボツ。


 で、結局、俺がどれを選んだかというと、四軒目。

 決め手となったのは、タイル張りの浴室がついていたことだ。

 浴槽さえなんとかすれば、お風呂に入れる!


 ルルも庭が気に入り、やはり四軒目を選んだ。

 まあ、二人で住むわけだから、自分だけでは決められないからね。


 翌日、お店に書類を返しに行く。同時に購入の手続きも済ませておいた。

 名義はルルにしておく。

 だって、俺の身分じゃ、買えるかどうかも怪しいからね。保証人もいないし。


 カギをもらったから、いつでも入居できるのだが、家具やもろもろの準備が済むまでは宿も借りておく。

 今日はルルがお城へ行き、リーヴァスさんに会ってくるとのことなので、例の河原に行って点魔法の検証でもしよう。


 言っておくけど、昼寝が目的ではないからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る