第010話 束の間の

 この世界では能力示す指標として主に十の項目がある。


 生命力を表す"生命"

 魔力量を表す"魔力"

 物理的出力を表す"筋力"

 魔法的出力を表す"知力"

 物理的耐久力および免疫的強度を表す"体力"

 魔法的耐久力および精神的強度を表す"心力"

 器用さを表す"技巧"

 反応速度を表す"反応"

 俊敏さを表す"敏捷性" 

 スタミナを表す"持久性"


 現在のシュウは自身の固有技能である"共鳴"によってかなり強化されているが、この世界に来た当初の彼は目立った特徴のない平凡なものでしかなかった。

 成長速度自体は二つ目の固有技能"適者生存"による補正があるものの、それで能力を伸ばすにはそれなりに時間を要する。


 異世界という見知らぬ地では何がどう転ぶかわからない。時には暴力的な輩に絡まれることもあるだろう。


 生き残る力が欲しい──そう考えるシュウに選べる道は、配下を増やして"共鳴"による単純かつ短期的な能力の向上か、"適者生存"と鍛錬によって多彩な技能を学んで堅実かつ長期的に能力を高めるかのどちらかであった。


 例を挙げるならば、ダリアの"木魔法Lv10"から"木魔法Lv1"を取得できるように、配下の魔物から"共鳴"で技能を取得することは可能である。

 しかし、森周辺の魔物だけでは似通った性質のものばかりでバリエーションが少なく、対応力を上げるという意味ではあまり効果的でなかった。


 それに実際問題、彼に取れる手段は後者しかない。この地に地盤も後ろ盾も持たぬシュウが無闇に配下を増やした場合、配下の生活管理ができずに組織として破綻はたんしてしまう可能性が大いにあるからだ。


 まずはあらゆる場面に対応できる応用力──ひいては生活力を身に付けるべく、シュウはシバの村へとやって来たのである。




 村を訪れて二日目──昨日に引き続き、本日も彼らは怪我人と病人の治療が待っていた。


「ハァ……今日もまた治療の山か」


 昨日よりは患者は少ないからまだマシ──シュウはそう思いながら、村の酒場兼食事処に来ていた。メニューはミルクと干し肉、それと固くて味のないパンである。


(人から感謝される上、ゲーム風に言えば経験値も稼げる美味しい仕事も言えるけど……)


 シュウは昨日の治療行為により、治療に使用した"木魔法"によって"魔力"と"知力"、そして薬剤の作成で使用した"調合"によって"技巧"が大幅に鍛えられていた。

 しかも同じ作業を長時間繰り返したことで"適者生存"が作用し、通常よりも大きなボーナス効果を得ていたのである。


(めんどくさいものはめんどくさいんだよなー)

「あー……働きたくねぇ……」


 仕事二日目にして、彼のやる気はゼロになっていた。


「ちょっとちょっと~、シュウには目的があるんでしょ? もっとやる気出していこう!」

「うるせえ。朝からテンションたけえんだよ。静かにしてろ」


 シュウの頭上でソフィが騒いでいると、対面の席に朝食をトレーに乗せたカイルが二人の前へとやって来た。


「おはよう。昨日は大変だったみたいだが、調子はどうだ」

「疲れてるに決まってんだろ……ったく、怪我人病人が多すぎなんだよ」


「それについては本当に助かっている。おかげで死者も出ずに済んだ上、食事も皆に行き届くようになった。中には今日から仕事を始める者もいるらしい。たった一日でこの村はかなり持ち直すことができた……本当に感謝している」

(朝っぱらから暑苦しいのがここにも……)


「まあ、それが契約だからな。で、後どれくらい残ってんだ?」

「だいたい昨日の半分ほどだろう。それにあとは軽傷の者ばかりのようだったし、昨日よりはかなりマシなはずだ」


「あれ、もうそんなもんなのか? なら、午前中に終わらせるのを目標にするか。その後は……約束通りしばらくこの村に厄介になるからな?」

「ああ、もちろんだ。反対する者がいても俺が黙らせる」

「それなら安心だ」


 朝食を済ませたシュウはすぐに残りの仕事に取りかかる。

 やる気は無くとも仕事は迅速に終わらせ自分の時間を死守する──それが彼の仕事に対するスタンスだった。


「今日は重傷者がいないからダリアも余裕だな」

「ん、よゆー?」


 昨日の慌ただしさとは対照的に、今日の彼らには会話する余裕さえあった。この調子なら確実に午前中で終わるだろう。


「ハイ、次」

「どんどん来いやー」




 プレゼント効果で気合の入ったダリアの働きもあり、その日シュウたちは無事目標を達成することが出来た。


「よし、終わった! さあ休むぞ、おやすみ!」

「ちょっと! 本当に寝ちゃうの!?」


「あ? 技能を教えてもらおうにも、さすがに今からじゃ効率が悪いだろ。村全体の生活が安定するまでは様子見しとけばいいんだよ」

「そ、そう言われると確かに……そっか~、なら私もノンビリしようかな。ちょっと散歩してきていい?」


 ソフィに問われたシュウは、テント内にいる顔ぶれを確認する。

 妖精、スライム、植物少女、アンデッド、大蜘蛛──


「お前やダリアはいいけど、他の奴らがな……好き勝手動くと村人が驚くだろうし……」

(信頼を得られたばかりだし、今ここで余計な騒動は起こしたくねえな)


「一部だけ自由行動を許すのもなんだし、悪いが今日は全員大人しくしていてくれ。ああそれと、言いつけを破った奴はワイズが試作した薬の実験台になってもらうからな。わかったかソフィとスフィ」

『「うっ」』


「バレバレですな」

「バレバレー」

『馬鹿な子たちだね』


 シュウたちは休息を取りながらも、不測の事態に備えて午後からもテントで待機していた。

 しかし、その日来たのは病み上がりで無理した兵士や、転んで怪我した子供だけで、彼らは久しぶりにのんびりとした時間を過ごす。


(洞窟生活の時はこの村と交渉するために、昼夜問わず狩りやら素材集めに動きまくってたからなぁ)


 束の間の休息をシュウは布団の中で噛み締める。


(ああ、何もしなくていい……やっぱ休みってのは最高だ!)

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