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「美味くなったな」

「・・・ありがとうございます」

 味わうように飲んでくれたマスターがそう言ってくれた。

「世界一の褒め言葉です」

「言い過ぎだよ」

「そんなことないですよ。俺にとってはそれくらい嬉しいってことです」

 胸が湧きたつ。忘れているかもしれないけど、そんな感想を言ったのは今日が初めてなんだから。

「まぁ僕の方が美味しいけどね」

 そりゃ当たり前でしょっ。

「俺のお師匠様なんですから、そうでないと困ります」

「言うようになったね」

「マスターの弟子ですから」

 自然と頬が緩む。十三年前、この人に拾ってもらえてよかった。俺にバーテンダーという素敵な仕事に導いてくれてよかった。あなたが居てくれて本当によかった。

「まぁ、あの頃の想太は酷かったけどなぁ」

「えぇ、そんなことないでしょう?」

「そんなことあるよ。第一ヘンテコな髪形していたじゃない」

「なっ」

「なんであんな色していたの?」

 あれは若気の至りってやつで。格好いい髪形の方がバーテンダーぽいかなって思っていたからっ。

「だから最初は追い返したんだよねぇ。ありえないし」

 ありえないかー。あの時はイケてると思ってたんだよっ。

「黒髪になって髪形も落ち着いたから、まぁいいかなと思って入れたんだよね」

「・・・そうだったんですね」

 もしや髪形を最初から好印象にしておけば即オッケーだった、とか?

「でもま、決定打は想太の粘りだけどね。本当にバーテンダーになりたいんだなって思えたから」

「え」

「育てたいなって思ったからね。だからこんなに立派になってくれて、僕も鼻が高いよ。良くやったね、想太」

「ふふ」

 あぁ、本当に。バーテンダーになってよかったと心から思える。

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