LAST CANON

角鹿冬斗

プロローグ

 物心ついた時から思っていた。


 何故、この世界はこれほどまでに節制に縛られているのだろうと。


 彼自身が知る限りでは、近い年代の子供は皆同じ時間に起き、同じ物を食べ、同じ内容の勉強をし、そして同じ時間に眠る。


 しかし、それでも人はそれぞれ違い、必ず『差異』が出る。そして、決まってそれが出た子供はあるべき場所、大人が言う『差異に相応しい場所』に連れて行かれた。そこがどこにあって、どんなことをする場所なのかは教えてくれない。


 これが今の世界。これが当たり前で、これが日常。彼自身が生まれる以前から行われている政策の一環で、これが今の人類のであった。




 ──故に少年はした。




 時間に縛られない生き方。毎日食べる物以外の食べ物。勉強をしない日。夜中という時間帯の延長戦。そのすべてに興味を持った彼は、人目を盗んで施設を抜け出した。


 そこで初めて見た夜空が綺麗だったのが印象に深い。背徳感の裏で躍った心は、今でも忘れられない思い出だ。


 結局、施設に連れ戻された少年は『差異』が芽生えたと言われ、『差異に相応しい場所』に連れて行かれるはずだった。


 だが、どういう訳か大人たちは少年を送らなかった。


 その理由は今でも不明なままだ。だが、正直な気持ち、連れて行かれた方が良かったのかもしれないと思っている。


 その日から、『差異』でありながら施設に残っている少年は孤立した。





 ──その日が来るまでは。















「とても良い眼をしてるわね。どう、一緒に反抗する気はある?」



 彼女との出会いは、まさに天恵だった。


 少年が立ち竦む目の前に屈み込む機体のコックピットから出てきた少女が問いかける。


 風に揺られる橙色の長髪。見たことのない派手な色使いの服。そして何より、彼女の目はこれまで出会ってきた人間の中で最も輝きに満ちており、今の時代から大きく乖離している存在であるのは明白だった。


 希望や自由という言葉は、まさに彼女のことを指しているのかもしれない。そう、一目で見て分かった。





「この世界、ブッ壊してみない?」





 その差し出された手を、少年は────

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