第21話 山路さんの娘さんと会食した
日曜日の午後6時に銀座のホテルのロビーで待ち合わせということだった。今日は和服にした。その方が年の割に落ち着いて見える。娘さんには良い印象を与えたい。
ホテルのロビーに入って行くとすぐに二人が待っているのが分かった。遠目に挨拶を交わして近づいて行く。娘さんが山路さんに何か言っている。娘さんはすらっとした美人で感じがよさそう。
「今日はご招待いただきありがとうございます。こちらが娘さんですね。初めまして、寺尾凜です」
「初めまして、
「お父さまもそうおっしゃるんですが、そんなに似ていますか」
「そっくり、なぜか懐かしい気がします」
「じゃあ、話は食事をしながらにしよう」
3人で最上階にあるメインダイニングへ向かう。席に着くとすぐに栞さんが私に問いかけてくる。
「父のどこが好きになったんですか」
「栞、最近付き合い始めたばかりだ。そんなこと聞くもんじゃない」
「お付き合いを始めたと言うのは、嫌いじゃないからでしょ」
「そうです。嫌いならお付き合いませんし、好意を持っているからです」
「真面目が取り柄の父ですので、どこが気に入られたのか知りたくて」
「お父さまはとても誠実な方です。私のような女に交際したいと申し込んでくれました。すべて承知していると言って、それに私を守ってくれるとまで言ってくれました。これほどまでに私を大切に思ってくれる人は今迄いませんでした」
「凜さんとお話ししていると、なぜ父があなたを好きになったのか分かります。父はあなたといると心が癒されるのでしょう」
「栞さんにそんなことを言われるとは思いませんでした。それはいつもお父さまが言われていることです」
「私もお話ししていると懐かしいような心が癒されるような気がします」
「亡くなられたお母さまに私が似ているからですか」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません」
「うふふ、やはり親子ですね。お父さまと同じようなお答えです」
「父もそう言ったのですか」
「はい」
面白い親子だと思った。娘は父親を信頼しているのが言葉の端々でよくわかる。私も父子家庭だったから父親を信頼していた。ふと父親のことを思い出す。生きていれば60歳少し前のはず。
亡くなった母親に似ていると言われたけど、私には母親の記憶が乏しい。なぜだか分からない。でも今も私達を捨てて去っていった母親を疎ましく思っているから自然に記憶から消し去っているのかもしれない。
栞さんは私の過去の仕事やどうして父親と知り合ったのかついては聞かなかった。聞かれれば正直に話そうと思っていた。
彼に似て、そういうことはどうでもよいのかもしれない。過去にあったことよりも、これからどう生きていくことの方が大事に決まっている。
彼女も父子家庭だったから、私と考え方が似ているのかもしれない。男親は考え方がさっぱりしているし、娘はその影響を受けている。
栞さんは私に悪い印象を持たなかったみたいで安心した。私は娘さんの気性が分かってよかった。うまく付き合っていけそうだ。きっと親子は無理でも、友達付き合いか姉妹のような付き合いができると思う。
食事が進んでいく。私も緊張が解けてきて話しを楽しんでいる。栞さんの彼氏の話になった。私に相談したいことがあったら電話してもいいかと聞かれた。私は経験が豊富と思って相談にのってもらいたいらしい。
この辺については父親というのは頼りにされていないようだ。確かに私は母親か姉代わりとして、栞さんにとって頼りがいがあるかもしれない。食事が終わって別れ際に栞さんが私に言ってくれた。
「今日は私に会いに来ていただいてありがとうございました。お会いして父がプロポーズした訳が分かりました。どうか父をよろしくお願いします」
「私はお父さまにふさわしくない女です。でもできるだけお父さまのお力にはなりたいと思っています」
私はタクシーに乗って帰った。娘さんに会って良かったと思った。私は同じ父子家庭で育った娘として、栞さんの気持ちが良く分かった。彼女も私に同じ印象を持ったと思う。
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