第四章 鍋島のどか 3
結局真美子は帰ってこなかった。
朝起きると真美子からのLINEが入っている。
『おはよう。帰れそうもないからこのまま出勤してます。ちゃんと朝ご飯食べて学校へ行くこと!』
はいはい。
真美子のいない朝はなんとなく寂しくて心細くてその上食欲もあまりなくて、牛乳とチーズトーストだけの簡単な朝食を摂ることに決める。テレビをつけた瞬間、ドアップの円城寺小百合と目が合って度肝を抜かれる。迫力ありすぎるだろほんと。
『……それでは円城寺さんは、この世で起こるすべての出来事には前世が関係していると?』
『はい。輪廻転生、すべての人は業を背負って生まれています。その業が様々な困難となり、現世で人々に降りかかってくるのです』
俺は円城寺小百合の顔を見続けるのが嫌で、ぱちぱちぱちとチャンネルを変え続けていく。けれど、どの番組を見ても円城寺小百合が映っていて俺のことを苛立たせる。もっとあるだろ色々な話題が。番組を三周ほど回ったところで漸く『モーニングタイム』内で星座占いが始まるのだが、我が山羊座はスタートして一秒で転ぶ。最低かよ。そのあと漸く一匹抜かすのだけれど下から二位。終わったな。
ちびちびとチーズトーストを齧りながら絶望に伏せる俺に、『星座占い』の明るく楽しい声が語り掛ける。
『パッパラ~今日の十一位は山羊座のあなた~余計な心配をして悪い人に騙されちゃうかも~自分のことをしっかり信じて~ラッキーアイテムは~靴紐で~す』
暫く画面上を可愛い星座のマスコット達が占領していたのだがすぐに切り替わり、また円城寺小百合の特集になる。テレビに出すぎだろ。ちょっと前まで平介と花野ばかり映していたくせに。女子高生よりミーハーじゃないのか。北海道の大地震や台風被害はどうなったんだよ。
俺はテレビを消して、牛乳を喉に流し流し込んだ。靴紐ってどこで売ってるんだっけと考えながら。
結局靴紐を手に入れることはできなかった。
未だ未覚醒状態で上履きを履く俺の隣に、ライトがやってきていつも通りのテンションで声をかけてくる。
「おはよー、テル」」
おはよ。
朝の教室ではまだココアのお誕生日イベントが続いていて、ベリ子やブー子や他の女子からプレゼントを渡されたココアが嬉しそうに俺達の元にやってくる。
「テル君、ライトくん、おはよう」
俺はその笑顔になんとなく身構えて、後退りをしてしまう。
「おはよう」
と、少しばかり強張った表情の俺に気が付いたのか、ココアが不思議そうな顔をする。が、それよりも喜びの感情が強いのだろう。またパッと花の咲いたような笑顔になり、言う。
「あのね、昨日ママとレストランに行ったんだよ」
「へぇ。よかったじゃん」
「うん。それでパスタとケーキ食べて、すごく美味しかった! あとね、パパと電話で話して……ねぇ、見て。このカチューシャ」
真っ赤な顔で興奮するココアの頭には、白い花をモチーフにしたようなパール輝くカチューシャが乗せられていた。
「今ね、ベリーちゃんとキラリちゃんから貰ったの。似合う?」
なんて一回転するココアのことが、俺には大学生の清美に見えて。ニコニコと嬉しそうな表情も誉めてほしくて甘えてくる姿も俺の傷を深めるものでしかなくて。
黙ったまま下を向く俺に、ココアが不安そうにカチューシャを抑えた。
「に、似合わないかなこれ……変かな……」
喜び一変、傷ついたような仕草を取るココアに、ライトがフォローを入れる。
「そ、そんなことないよ! 加藤、めっちゃ似合ってる! そうだろ? テル!」
有無を言わさぬその態度に、俺も曖昧な気分で頷く。
「うん、似合ってるよ」
俺の一言でパアアアアアアと瞳を輝かせるココアは可愛い。
「ありがとう!」
と跳ねるように言って、ベリ子とブー子の元で飛んで行った。わいわいと突いたり突かれたりきゃあきゃあと黄色い声で話す三人。
その姿を眺めながら、俺は、ライトがジト目で睨んでくることを感じていた。
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