リスの家出
頭野 融
第1話
「お母さん、もう、いい。」
そう言って、リスは自分の家の木を走って下りて行きました。お母さんは悲しみ、困りました。そして、自分の家である木に「今すぐ探しに行ってきます。」と言いました。木は、「いずれ戻ってくるさ。」と言いましたが、リスのお母さんは探しに出かました。
リスは、進みました。どんどん進みました。あてもなく進みました。リスは、お母さんとおそろいのお気に入りのぼうしをしっかりと、かぶり直しました。お母さんとおそろいなんていや、そう思いもしましたが、やっぱりお気に入りです。日がしずみ寒くなってきたころ、リスは住むところを、探し始めました。
そこに、モグラが現れました。リスはモグラに、自分が家出したことを話しました。モグラは快く、自分の家に一緒に住もう、と言ってくれました。二人は仲良くおしゃべりをしました。そろそろ、晩ご飯の時間です。リスは、家に住ませてくれたお礼にと、自分が持っていたドングリを渡しました。モグラは、「ありがとう。でも僕はドングリを食べない。んだ。」と言いました。「そうなんだ。」と言って、リスはドングリを食べ始めました。モグラは、一人でミミズを食べ始めました。それを見たリスは、「えっ、モグラくん、ミミズ、食べるんだ。ミミズ、気持ち悪いよ。」と言って、慌ててドングリをほおばって、家を出ました。モグラは「ごめんね。」と言いましたが、リスには聞こえなかったようです。
リスは、暗い中、歩いて歩いて、疲れて、眠ってしまいました。
次の日の朝、リスは、ドングリを探しに出かけました。歩いて、歩いて、やっと落ちているドングリを見つけました。たくさんのドングリを取った後、リスはその木に上りました。ゆっくりすわってドングリを食べようとすると、だれかが横に立っていました。ぱっと横を見ると、それはワシでした。リスは、びっくりしました。ワシはリスを食べるのです。リスはいそいで、逃げようとしました。しかし、後ろからワシが大声で、「オレはきみを食べない。だからとなりにいてよ。」と言いました。リスがもう一度「食べないの。」と聞くと、ワシは「絶対に食べない。」と言いました。そして、リスはワシの横にすわりました。リスは、ドングリを食べながら、ワシと楽しくおしゃべりしました。ワシも一人でさびしかったのです。二人は仲良くなりました。そろそろ、昼ご飯の時間です。リスは、「二人で一緒に食べたい。」と言いました。しかし、ワシは「いや、いいよ。」と言いました。そう言った後、ワシは一人で木の陰にかくれて、ご飯を食べ始めました。リスは、ワシを追いかけながら、「なんで、一人で食べるの。僕がいやになったの。」と言いました。リスは、ワシが死んだリスを食べているところを目の当たりにしました。リスは泣き始めました。ワシは、申し訳なさそうな表情になりました。ふと、リスが顔を上げると、死んだリスと目が合いました。そして、リスは大声で泣き始めました。ワシが「どうしたの。」と声をかけても、リスは泣き続けました。そして、「ぼうし。」と、ぼそっとつぶやきました。そして、「いつ、つかまえたの。」とワシに聞きました。ワシは「つかまえたんじゃない。死んでいたから、持って帰って、食べて成仏してもらおうと思ったんだ。」と言いました。言い終える時には、リスは家へ走っていました。
「はぁ、はぁ。」リスは、息を切らしながら、家に着きました。「やっぱり、お母さんがいない。」とつぶやきました。そして、一晩中、泣き続けました。それをなぐさめるかのように、木がリスに話しかけました。「たしかに、きみのお母さんは、きみを探しに行ったきり帰ってこない。きみが悲しいのはわかる。だけど、きみは人を悲しませていないのか。」
リスは、だまって立ち上がり、朝日に向かって一人、歩き始めました。
木は、また、一人になりました。
リスの家出 頭野 融 @toru-kashirano
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