25・夜光


夜の海。

連絡船の上から海を見ると、ぼんやり輝く何かが見えた。


あれは?


と、ぼくは、横に居る先輩に尋ねる。

咥え煙草の先輩は、ああ、と、さほど興味も無さそうに、答えた。


死体だな、ありゃ。


死体?





ぼくは、ぼんやり輝く何かを見詰める。

夜の暗い海。その中に輝くもの……確かに、人型に見えない事も無い。





海に流れている死体に、夜光イカが纏わりついてるんだろう。




先輩は、そう答えた。






それから。

咥え煙草のまま、不意に、笑った。





でもな、俺は時々思うんだ。




もしかすると、あの光ってるのは、海で死んだ魂なんじゃないかな、って。

奴らは、陸に帰りたがっている。帰りたくて仕方なくなっている。

だから、海に死体が漂っていると、それに纏わりつくのさ。

陸に帰る為の肉を探して。




そこまで言って、先輩は薄く笑った。




冗談だよ。そんなマジな顔するなって。





そう笑いながら、先輩は、夜の闇に煙草の煙を吐き出した。





ぼくは、海に視線を向ける。

既に、夜光の死体は、そこに無かった。

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