11・許されない恋をした


誰にも許して貰えない恋だったから。


こっそり隠れて口付けた。



誰にも見つからないように。

息を潜めて、身体を縮め、辺りを伺い、口付けた。




キスした後に、御免ね、と思わず囁いた。




君は、ナイフで切られたみたいに、とても痛そうな顔をした。







誰にも許して貰えない恋だったから。


二人で、世界の果てを夢見たりした。





「世界がぼくたちだけのものだったらいいね」なんて、ぼくは馬鹿げた事を言ってみた。



君は、世界にたった独りでいるような声で、「泣いてるみたいな顔で言わないで」と言った。






誰にも許して貰えない恋を、ぼくたちはしていた。




その恋はもうぼくの中には存在しないけど、

あんな苦しくて、哀しくて、精一杯で、相手を思う事しか出来ない恋は、君以外の誰とも無理だろう。





瞳を閉じたらすぐに思い出す。




苦しくて、哀しくて、精一杯で、何度も何度も泣きながら、それでも君に焦がれた恋の中。

世界から逃げるように瞳を閉じて、息を潜めて口付けた事を。



すべてから身を隠して、口付けた事を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る