第14話16章・現在、シルスティン編 前編



【16】





 例えばこれは記憶のかけら。

 例えばこれは御伽噺の断章。




 少女が泣いている。

 細い手が顔を覆っていた。俯く顔を撫でるような銀の髪。細い肩は震え、揺れている。

 少女が泣いている。



 少女の声が聞こえる。



 

 私の望みはただひとつ。

 彼と共に在る事。

 

 それだけなのに。


 彼の傍にいること。

 彼に愛されること。

 彼を愛すること。

 

 彼と共に生き。

 彼と共に笑い。

 彼と共に泣き。

 彼と共に老い。

 彼と共に死ぬ。


 それだけが望み。


 他に何も要らない。

 それだけ。

 それだけでいいの。


 

 どうしてそれが許されないの?

 どうしてそれがいけない事なの?

 誰が決めたの?

 誰が、私たちを罪だと定めたの?



 おしえて。


 貴方なら、分かるでしょう?

 


 恋に狂った私じゃなく、貴方ならば、分かるでしょう?



 少女の涙に濡れた瞳がこちらを見た。

 その瞳から逃れる術は無い。

 


 だから、一声、鳴いた。




 分からない。

 ただ、分からないと。


 そう、答えた。




 少女が言う。



 私たちが罪人ならばこれ以上の罪は恐れない。

 罪の上に罪を重ねても、私は彼と共に在る。

 私自身さえも裏切って――壊しても、私は彼と共に在る。



 強い強い言葉と裏腹に、少女の身体はあまりにも頼りなくて。


 

 何だかとても哀れに思えて、その真白の身体に己が身体を摺り寄せた。








 黒猫の、頼りない小さな身体を。



 

            ……後編へ続く……

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