第12話4章・ゴルティアにて。


【4】






「――生還」

「なぁに、それ?」


 店から出てゼチーアの第一声に、ジュディの疑問符がぶつけられる。


「まるで戦場から帰って来た気分です」

「だからそんなに緊張する事も無いのよ。此処のお料理は美味しいし」

「味など分かりませんでした」

「それは可哀相」


 ジュディが笑う。

 店の中で会ったばかりの時とは違う。アルコールが入っているのもあるだろうが、声と表情が軽い。


 しかし。


「帰りはどうしますか」

「……」


 馬車を呼ばなければならない。

 ジュディは肩に羽織ったケープを軽く掻きあわせる様な仕草の後、「ねぇ」と言った。


「はい」

「乗っていく?」

「………?」

「此処に」


 店の背後。


「レイチェルを連れてきてるの」

「………」


 ジュディの片割れの名に思わず森を見た。

 何処かの貴族の所有地。そう聞いていた。


「知り合いの土地だから。馬車は狭くて嫌いだし」

「いや――しかし」

「レイチェルは貴方を嫌ってないわ。大丈夫」


 それに。


「ベルグマンに会いたいわ」



 ねぇ、と、二度目の言葉。



「会わせてくれる?」

「……分かりました」

「有難う」


 



 森の中で大人しく蹲っていたレイチェルは、片割れの姿に嬉しそうに金色の翼を広げた。

 そしてゼチーアの姿を認め、不思議そうな顔をする。


 金竜としては細身の体躯で、柔らかい顔立ちをしているレイチェル。一目でメスと分かる優しい顔立ちの金竜だ。


 ジュディは手を伸ばし、片割れの頬に触れた。


「ゼチーアの家に行くわよ。覚えてるでしょう?」


 レイチェルは素直に頷いた。

 頷いたが、ゼチーアをちらちらと見ている。

 困惑しているようだ。


 混乱の様子を見せる金竜に、ゼチーアは近付く。触れられる位置で手を伸ばす。

 金竜はあまり己の片割れ以外に身体を触れさせない。

 しかしレイチェルは例外的にゼチーアを許した。今も伸ばした手に顔を触れさせる。

 確認するように顔を寄せ、それから長い首をゼチーアの顔に寄せてくる。

 飛竜の愛情表現。


 昔、よくして貰ったその行為に思わず笑みが浮かぶ。

 

「大丈夫みたいね」


 ジュディの声に反応してレイチェルが地面に身体を伸ばす。

 ドレスで騎竜するつもりか。

 一瞬の不安はすぐさま的中。軽々と竜の背に跨ったジュディの姿に、思わず頭を抱えそうになった。



「どうしたの? 早く行きましょう?」

「……はい」


 まぁ夜だ。さほど目立たないだろう。

 そう思う事にした。

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