無色不透明な白紙

のざらし

水溜りの世界

「水溜り」


「はい?」


「水溜りの中に映る景色のが綺麗に感じるのは、何故なんでしょうか?」


「ロマンチストですね」


「笑わないで下さい。 なんだか恥ずかしくなってきました」


「いえ、すみません。 水溜りを覗き込んだと思ったら、突然詩的な話をするもんだから、つい」


「ふと思ったんです。 こちらの景色はこんなに煙っているのに、なんだか、あの中はやけに透明に見える」


「はい」


「何故なのか」


「何故なんでしょうねえ」


「だから笑わないで下さい」


「だって簡単なお話ですよ。 手の届かない場所にあるものは、神秘的で美しく見えるものですから」


「ああ、なるほど」


「ああいったものは幻であるからこそ尊いのですよ。 一度でも触れたら、こちらと何ら変わりのないつまらないものに落ちてしまう」


「そうか」


「そうガッカリしないで下さい。 触れられる場所にあっても尊いものもあるんですよ」


「え、そんなものあるんですか?」


「ですから、君は水溜りの世界へ惹かれて行ってしまってはいけませんよ?」


「?」


「いけませんよ?」


「はい。 ……?」


「君はここにいるべきです」


「そもそも水溜りの世界になんて行けないじゃないですか」


「そうですね」


「からかうのはやめて下さい」


「はいはい」

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