第6話 ラマナス海洋国家史(2)

 それは、エドワード島近海の海底調査中に未確認巨大構造物を発見したと言うものだった。


 その未確認巨大構造物と言うのは、全長が約650m、幅が約100mと言う巨大な物で、驚くべき事に少なくとも5000年以上前からそこに存在していたらしいと言う事だった。さらに世界中がその耳を疑ったのは、この巨大構造物が『異星人の巨大宇宙船』の可能性が高いと言う事だった。もちろん、またもや世界中がゴシップ紙が好む『世迷言よまいごと』としてこの発表を嘲笑した。


 しかし、その水面下では中国共産党政府は歯ぎしりをしていた。


 そう、三年前、エドワードがこの海域を領有する時に何故、世界中が、特にほぼ同盟関係にあったロシアまでが敵に回ったのかを知ったからである。そう、中国を除く世界中の政府関係者がこの『異星人の巨大宇宙船』のちに『Ancient Huge Alien Ship(通称:AHAS)』の存在を知り、そこに隠された超高度技術オーバーテクノロジー欲しさにエドワードの世迷言に便乗したのだと理解したのだ。


 ただ真実は、少し違い、すべてを仕組んだのはエドワード=ラマナスその人だった。彼がかつてこの海域を個人的に調査中に偶然この沈んでいたAHASを発見し、極秘裏に調査し、その上で中国共産党政府以外の主要国に働きかけを行ったのだ。ただエドワードが中国共産党政府を除外したのは個人的な政治思想などが理由ではなく、そこが中国共産党政府が領有を主張する九段線の真っただ中だった為に、AHASを中国共産党政府が独占する事によって世界のパワーバランスが著しく偏るのを恐れた為だった。そしてエドワードが真っ先に話を持って行ったのが台湾の国民党政府だった。大陸の共産党政府と敵対する国民党政府がこの話に乗らないわけがなかった。後は台湾政府の人脈を通じての世界の主要国との極秘外交交渉が進んでこの様な事態になったのだ。


 ここにおいて、大陸の中国共産党政府は再びラマナスチャイナ極秘合意文書を正当性を否定し、ラマナス海洋王国の存在を自国の領土に対する違法占有とみなし即刻退去を通告した。そして同時に一か月の猶予期間を置いても退去しない場合は、実力を持って排除すると宣言した。これに対しラマナス海洋王国側は、この中国共産党政府の通告を直ちに『宣戦布告』とみなし、事実上、両国は戦争状態となった。国連やその他国際司法裁判所等の組織は戦争回避にまったく機能する事はなかった。これは第二次世界大戦の戦勝国が戦後自身が有利に動ける様に国連の安全保障理事会常任理事となり絶対的な拒否権を持たせた事などに拠る弊害そのものだった。


 ある意味、この紛争は第二次世界大戦処理の歪みが一気に噴出し最悪の事態に発展したものだった。そしてこの紛争こそ、『第二次世界大戦の戦後体制の終焉』と『新たな世界体制の始まり』告げるものになる。もちろん、この時点でその事に気が付いていた者は世界中でもほんの一握りの人間だけだった。


 当初、ラマナス海洋王国側には、当然、かつてその建国時の騒乱の時と同様に世界連合軍が援助に回ると思われた。そして、同時にそれが世界中を戦火に巻き込む第三次世界大戦へと発展すると誰もが恐怖した。


 しかし、ラマナス海洋王国の国王になっていたエドワード=ラマナスは、世界の国々に向けて驚くべき声明を発表したのだ。


『今回の我がラマナス海洋王国と中華人民共和国との間に起こった紛争は、あくまで二か国間の物である。他のどの国家、集団、組織も決して介入しない事を望む』


 これは中国共産党政府側へ他国が加担するのをけん制するのと同時に、事実上の自国に対しても援助不要宣言だった。これには誰もが自殺行為だと嘲笑した。そして、この戦争は中国共産党政府が短期に勝利し納まる物と思われた。


 ただ一つ分からなかったのが、AHASの所有権だった。この紛争で中国共産党政府が勝利すれば当然、AHASは中国共産党政府が独占する物と思われた。それを他国が黙って見過ごすのもやや不可解だった。普通に考えればラマナス側に協力し、AHASの共同調査権を得るのが得策と思われる。しかし、これも表向き他国の紛争に軍事的介入をしない平和主義の仮面を被り、かつ中国共産党政府にはこの紛争への不介入を手土産にAHASの合同調査を交渉するのが得策とどの国も考えたのだろう思われた。


 そして2027年2月14日、中国の人民解放軍の三隻の空母、15隻のイージス艦、多数の駆逐艦、さらには攻撃型潜水艦を中核とする総勢50隻以上の大規模制圧艦隊がラマナス側の首都機能が集中するエドワード島へ向けて進軍を開始した。これに対して、ラマナス守備艦隊側は三隻のイージス艦と12隻小型のミサイル駆逐艦とがその全戦力だった。当初、人民解放軍の航空戦力によるラマナス領内の島々への空爆等も懸念された。しかし、中国側がラマナス領内の島々に残っている多数の民間人への被害が出て、世界世論の反発が怒る事を恐れ、この時点では爆撃行われず艦隊戦が行われる事となった。


 結果は火を見るより明らかだった。中国艦隊はその圧倒的戦力差で一方的な戦いを展開し、開戦後一時間足らずでラマナス側のイージス艦は三隻すべてが沈没。駆逐艦もほとんど戦力を失った数隻がかろうじて浮いているのみとなった。ここの時点で中国共産党政府はラマナス側対し、『直ちに武装解除し即刻、不法占拠中のすべての島々及び海域からの退去を勧告した。そして48時間以内退去が始まらなければ、不法占拠中のすべての島々に対して武力により強制退去措置を開始する』と勧告した。


 世界中が固唾を飲んで見守る中、期限である48時間が過ぎた。途中、島々に住む民間人の避難は行われたがラマナス側の王を始めとする首都防衛隊や国中枢機能を担う政府要人の退去は行われる事はなった。これは事実上の中国共産党政府に対する『拒否宣言』だった。


 期限の48時間が過ぎても、ラマナス王を始めとする国機能がそのまま居座っているのを確認すると直ちに、中国大陸にある空軍基地から、大規模な爆撃機の編隊がラマナスに向けて離陸した。そして、同時にラマナス守備艦隊を破ってその場に待機していた人民解放軍ラマナス制圧艦隊が最大戦速でラマナス島へ向けて進軍を開始した。

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