監禁された少女、退屈な日々

宇津田 志納

第1話終わる退屈な日々

 ボクハ、カンキンヲシナケレバナラナイ。

 ソウシナケレバ、ボクハボクデナクナル。

 ボクハ、ボクデアルタメニ。











 カンキンヲ、シヨウ。











 退屈な日々。退屈な日常。


 反吐が出る。


 なんてつまらない。ただただ、のうのうと一人で生きている。毎日が作業のように続いている。繰り返されている日々、日常。朝起きて、昼に活動して、夜に寝る。そんな毎日が繰り返されている。


 一日、一日が経つごとに減りすられていく精神。自分自身の心が潰れそうになる今日この頃。まさに憂鬱という言葉が今の僕に当てはまるだろう。


 さて突然だが、自己紹介をしよう。

 ぼくの名前は入瀬いりせ 兎亜とあ。趣味は小説を書くこと。それと人間観察をすること。ちなみに特技はこうやって自分自身を語ることと、妄想にふけることだ。

 両親や友達がいないことを除けば、一般の男子高校生だ。


 改めて思う。なんてつまらない世界なのだろう。神様という存在がいるのなら、全力で抗議したいところだ。

 ぼくはこのまま年を取って、やがて死んでいくのだろうか。身体が朽ちていき、やがて消えていくと考えると神様に文句の一つでも言いたくなる。

 一度きりの人生だ。なにか。なにかないものか。


 日が暮れて、落ちていきそうな夕日が僕を照らす。日が落ちるのが短くなってきたように感じる。

 最近では気温も下がり、外に出たくない人も多いだろう。

 授業が終わり、何度も通い続けている通学路。そこにぼくは一人歩く。歩き続けながら考えている。しかし、時間ばかりが過ぎていく。

 周りには人が一人もいない。比較的、心が気楽だ。小説のネタを考えているときも世話になっている道だ。


 風が吹く。


「寒っ」


 あまりの寒さに声を出してしまう。

 ひんやりとした風がぼくの体温を奪っていく。夏が過ぎて、紅葉の色を見ると秋がくるんだなと実感する。人がいないと、こうも季節感が味わえるのだと得した気分になった。

 しかし、その気持ちはすぐに失せる。

 こんな気分、幸せではない。


 ぼくは刺激を求めている。こんな季節感漂う風ではなく、自らの人生に発車をかける新しい風が欲しかった。

 ふと、ぼくは足の速度を弱めた。足を止めた場所は、とあるおもちゃ専門店だった。ここに来たのは偶然ではない。故意的なものであり、目的がある。


 このおもちゃ専門店は昔からの老舗であり、ぼくが生まれたときから営業している。幼少期に数回訪れて以来、入店した記憶がない。覚えている限りでは、さまざまな人形やぬいぐるみが店内に置かれていたはずだ。

 おもちゃ専門店の外からは窓越しで店内を見渡せるようになっていた。

 つい、ぼくの目線はさまざまな方向へと動いてしまう。


 そして、見つけた。


 居た。少女だ。


 湧き上がる興奮を胸の内に抑え込む。爪や指を皮膚にめり込ませ、両手は力強く握りしめていた。嬉しさのあまり発狂しそうになってしまう。自ら溢れ出る欲求を痛みで抑えつつ、少女を見つめる。

 この少女を見つめることが、最近のぼくの日課。

 いつもこの通学路を通ると、少女はおもちゃ専門店にいた。決まって必ず少女がいる。

 少女の名前は知らない。顔見知りでもなんでもなく、赤の他人だ。


 年齢は中学生ぐらいだろうか。高校生、にしては幼いかもしれない。年齢からみて落ち着きがあることから、育ちはそこそこ良さそうだ。

 腰まで伸びた黒髪に艶があって、白くて繊細な肌。全体的に整った顔立ちに誰もが惹かれそうなる。童顔というやつだ。

 それに血色の良い弾力ある唇に、太り過ぎず、痩せすぎないスレンダーな体型。


 最初、彼女を見たときはドキドキしていた。思わずキスをしてしまいそうになる。こんなに可愛らしい少女は未だかつて見たことがなかった。

 やがて、一つの想いが脳裏に横切る。


 少女が、傍にいてくれたら何か変わるかもしれない。堕落したこの退屈な日々を終わらせてくれる存在になり得るかもしれない。

 そう思った。その時、一つの案が思いつく。

 彼女をぼくの傍に置くようにすればいいんじゃないか。

 そうだ。新しい風は待つだけでは駄目だ。自分から捕まえにいかなくては始まらない。


 にやりと口元の吊り上げる。

 ここで声を掛けても、ぼくを信用してくれるか分からない。最悪の場合、不審者扱いをされて彼女との接点が絶たれてしまう。それならば、彼女を誘拐して監禁すればいい。

 正直、誰でもよかった。ただ、ぼくの退屈な日々から抜け出せる。でも、できるなら自分が気に入った人がテンションも上がるというものだ。

 成り行きはほんの些細な事であったが、ぼくはこの出会いを感謝した。

 神様も捨てたものではない。


 そうと決まれば、念入りに準備しなければならない。チャンスは一度きり。失敗をすれば社会的破滅であり、二度とぼくは退屈な日々から抜け出すことができなくなる。

 ぼくは完璧な計画を作り上げるため、急いで自宅に戻るのだった。

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