チートで賢者な俺は異世界に革命を起こす ~天才、鬼才、稀代の賢者……それ全部俺のことらしいです~
どらねこ
第1話 始まりは突然に
「ま、まさか……成功したんですか!?」
突然移り変わった景色に腰を抜かした俺に、投げかけられた言葉はそれだった。
「……は?」
銀髪の美少女が俺に向かって跪いている。それも、今までに見たことのないようなレベルの可愛さの少女がだ。全く訳が分からなかった。そんな俺に少女は頭を下げて言う。
「どうか、この国を救ってください……賢者様」
俺はあまりに現実離れした状況に頭を抱えた。
「すまない、何が何やらわからないんだ。もう少し説明してくれないか」
「この国、イスランディアは今、未曽有の危機に陥っています。その解決の為に、賢者であるあなた様にお力を貸していただきたいのです」
「賢者って、俺がか?」
「はい」
俺は平凡な男子高校生なんだが……。一体何が起こっているのやら。
まずイスランディアなんて国聞いたことが無い。それに、なぜか日本語も通じているし……これは、まさか異世界転移とかいうやつか!?
「申しおくれました。私はミリアと言います。ここではなんですし、後の話は会議室でお話いたします」
そう言ってミリアと名乗った少女は歩き始める…………四足歩行で。
「おいっ!?」
「? なにかありましたでしょうか?」
ミリアは何がおかしいのだというような顔で俺を見た。おい、まじかよ。この世界ではこれが四本足で歩くのが常識なのか!? 俺を案内しようと俺に背を向けたものだから、ドレスの中が見えそうになっているんだが。
……いや、覗いちゃだめだ!
スカートの中のエデンに心惹かれながらも、俺は煩悩を断ち切った。何もわかっていない今の状況でいきなり悪感情を持たれる訳にはいかない。
「こうやって歩けばいいんじゃないか?」
腰が抜けたまま座り続けていた俺は、立ち上がって歩いて見せた。それを見たミリアの瞳が大きく見開かれる。
「なっ……! そ、それはどうやって行うのですか!?」
「どうって、普通に立ち上がるだけだけど……」
ミリアは懸命に立ち上がろうとしているが、今まで立ったことが無いからか苦戦しているようだった。
「んーーーー! はぁはぁ。できません、賢者様……」
息を切らせ、涙を潤ませながら俺を見てくるミリア。
「俺が手伝ってやろうか? そうすれば立てるだろ」
「良いのですか!? 是非お願いします!」
「……おう」
まさか喜ばれるとは思わなかった。俺はミリアの腰に手を回す。……うわ、柔らかい。女の子って、こんなに柔らかかったんだ。……ってそんなこと考えてちゃだめだ。無心無心。
「じゃ、じゃあ持ち上げるぞ」
「はい、お願いします!」
俺はミリアを持ち上げてあげた。ミリアは少しヨロヨロとしたものの、すぐに一人で立てるようになった。
立ち上がったことでミリアの全身がよく見れるようになったが、これがまた凄まじい。
まるでモデルのような体形をしている。「清廉」という言葉を人間にしたらこんな感じなのだろうか、と思ってしまうほどの清潔感を纏っていた。それに、髪と同じく銀色の瞳も凄く綺麗である。
「すごく目線が高くなりました」
ミリアは呆然とそう言った。どうやら余りの衝撃に驚きすぎてしまったようだ。
「良かったな」
「はい! まさかいきなりこんな英知を授けてくださるとは……さすがは賢者様です」
「ははは、それほどでも」
ミリアが満点の笑顔を向けてくる。それを見た俺は、この世界で生きていこうと決めた。元々地球に未練などなかった。こんなかわいい子と別れることになるなら、地球なんて帰る意味がない。どうせ友達もいなかったし。
「賢者様……お名前を窺ってもよろしいですか?」
「え? あ、言ってなかったか」
こんなにかわいい子と話せたせいで舞い上がりすぎていたかもな。
「俺は御子柴みこしば集しゅうって言うんだ」
「シュウ様……ですか?」
「うん。よろしくね、ミリア」
「っ……! はい、こちらこそよろしくお願いします、シュウ様!」
ミリアの笑顔はまるで天使のようだった。あまりの可愛さに俺は頬が熱くなるのを感じる。
「? どうかしましたか?」
「いや、別に何でもない」
俺は顔が赤くなったのを隠すため、ミリアから顔をそむけた。
「では、会議室に移動しますね」
ミリアは疑問に思ったようだが、深くは追及してこずに話を戻す。正直有難い。俺は二足歩行になったミリアの後に続いて、部屋を抜けた。
通路を歩いていると、何人かの従者と思しき人たちとすれ違った。皆俺とミリアが2本の足で歩いていることにかなり驚いている。この世界は地球とはかなり違いそうだな。
「ここが会議室です」
と、そんなことを思っている間に会議室に到着したらしい。ミリアが扉を開けた。
中ですでに集まっていた人間たちは、ミリアが二本足で立っている姿を見てやはり驚きの声を上げた。
「な! ミリア様、どうなって……!?」
「ミリア様が大きく……!?」
「皆の者、落ち着きなさい。これは後ろ足二本で立っているのです。そして、それを教えてくれたのが今私の後ろにいるこの方です」
「どうも。集です」
厳つい顔の人間が多いから普段なら緊張するところかもしれないが、いかんせん全員四足歩行だ。そう考えると緊張なんてしようがなかった。
「ふむ……見覚えのない顔だが、どちら様ですかな?」
白髭を生やした老人が、髭を触りながら俺を値踏みするように見つめる。
「あ、俺は賢者だ」
俺の言葉を契機に、会議室にざわめきが起きた。
「賢者様!? まさかミリア様、賢者召喚の儀に成功なさったんですか!?」
「ええ。私も驚きましたが、事実です」
どうやら俺は召喚の儀とやらで召喚されたらしい。この言い方だと成功率は高くないようだな。
「まさか賢者様だとは……先ほどのご無礼、お許しください」
髭の老人が俺に頭を下げてくる。
「ああ、許すよ。知らなかったんだ、仕方ない」
「おお……なんと寛大なのだ。ありがたき幸せ」
やれやれ、許すのなんて当然だろうに。どうにもやりにくくてかなわんな。
「それにしても、まさか二本の足で歩くとは……こんなことを思いつくなんてやはり賢者様は特別という事か」
「そうか」
まあ、地球じゃ常識なんだがな。
「それで、俺を召還した目的を教えてくれるか? なにやら国の危機と聞いてるんだが」
「ああ、そうでございましたな……この国は今、前例のない危機に陥っているのです」
「賢者様、どうか私たちに知恵をお貸しください!」
「まあまあ、皆落ち着いてくれ。まずは話を聞かないことには俺も何もできない」
「なんとお優しい……。では私から説明をさせていただきます。この国を襲っている危機とは、ずばり食糧危機でございます」
「食糧危機か……」
そりゃ、いくらなんでも俺一人でなんとかなる問題とは思えない。賢者とはいえ、俺だって人間なのだ。
「冷害により米が収穫できないのです。ミリア様の手腕のお蔭でこの都市部はそこまでひどくはありませんが、国全体では飢餓による死者が人口の一割に上ったとも言われております。このままでは間違いなくこの国は、イスランディアは終わりです」
「一割も死んでるのかよ……」
被害の大きさに思わず口から漏れてしまった。ここは日本とは違う、ということを改めて思い知らされたな。飢餓で国民の一割が死ぬなんて、現代の日本では考えられない。
「米は駄目なのかもしれないが、他の食物はどうなってるんだ? 何か代わりになる物はないのか?」
「? シュウ様、何を言っているんですか?」
「何を言ってるって……どういうことだ?」
ミリアが不思議そうな顔を俺に向けるが、その顔をしたいのは俺の方だ。
だが、ミリアは不思議そうな顔をしたまま、さらに衝撃発言を放った。
「お米以外に食料など存在しないではありませんか」
「……はぁ!?」
なんだと……? 米しかないなんて、そんなことがあり得るのか?
「炭水化物は、野菜は無いのか? そうでなくても果物はあるだろう?」
「ええ、それらはこの世界にもあります。……ですが、それと食糧に何の関係があるのですか?」
……ミリアの言っていることがよくわからないんだが……。炭水化物も野菜も果物もあるのに、食料だと思われてないってこと……なのか?
「ちなみに聞きたいんだが、野菜などはどうやって利用してるんだ?」
「特に何もしていません。ただ野生に生えているだけです。……あ、見た目が綺麗なものは家に飾ることもありますよ」
「……そうか」
俺はミリアの話を聞いて、ガックリと肩を落とした。餓死しそうになったとしても米以外を食べようとしないのだろうか。この世界の人間、大丈夫か?
「よし、とりあえずの解決案は浮かんだぞ」
「本当ですか!?」
周りの人間も驚いたように「馬鹿な!」「速すぎる!」とか言っている。やれやれだな。
その中の一人が恐る恐る発言した。先程の白髭を蓄えた老人だ。
「賢者様。あせって結果を出そうとするよりも、堅実な案を頂きたいのですが……」
この爺さんだけは場の空気に流されていない。中々肝が据わっているじゃないか。
俺は不安そうな顔をする爺さんに、にたりと笑いかけた。
「爺さん、言いたいことはわかるが……俺を誰だと思ってる。賢者の俺にかかれば、こんな問題は考えるまでもないのさ」
「っ!? で、出過ぎた真似をいたしました」
爺さんは慌てたように俺に頭を下げる。
「いや、いい。他の人間も、心の底ではどう思っているか分からんからな。口にしてもらってむしろありがたいくらいだ」
「それで、シュウ様。どのように解決すればいいのでしょうか」
「ああ、やることは簡単だよ。炭水化物、野菜、果物……ようは、米以外を食べればいいのさ」
場は静まり返った。どうやら俺の提案は衝撃的過ぎたらしい。
「な……なんという発想……! まさに常識の外じゃ!」
爺さんが我を取り戻し、部屋に響く大声を出した。どうやら俺の発想は驚きの物だったらしい。
「お米以外を食べるなんて、どうしたら思いつくのでしょう……」
「いやいや、そんなに大したことじゃないさ」
呆然としたように呟くミリアの頭を撫でる。ミリアは赤くなって俯いた。かわいい。
会議を終えた俺は侍女に部屋へと案内された。
「こちらでございます」
「ありがとう……ん?」
「どうかなさいましたか?」
「ベッドか、そうでなければ布団はないのか?」
「ベッド? 布団? ……申し訳ありません、何を言っているのかよくわからないのですが」
「……いや、俺の勘違いだ。呼び止めてすまないな」
侍女が出て行き、扉がゆっくりと閉められる。俺はその扉をぼうっと眺めた。
どうやらこの世界に心地よく寝るという文化はないらしい。まだまだ俺が役に立つことはありそうだ。
俺は自分が役に立っている実感を感じながら地べたに寝転び眠りについた。
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