伝統
スイッチ、スピード、スマート。Sの3Sだ。先代理事長・校長の堀内政三先生の言葉だ。我々吹奏楽班は演壇のすぐ下で演奏していたのでその言葉の意味がよくわかる。卒業式、威風堂々を奏でる我々の目の前に光る先生の涙を目にしてきた。まさにスマートだ。スピードならM先生も負けてはいない。フィリップ・スパークやローストをいち早く日本に紹介したのは先生だ。まずやってみる。やらないであれこれ言うのは誰にもできる。やってみたから言えることがある。
「これからはマーチングもやるぞ。せっかくだから池袋駅前公園(今の東京芸術劇場)のパレードに参加するぞ」
「えー、コンクールの上にマーチングかよ」
やってみれば、観客の中に 「俺の後輩達なんですよ」 と胸をはるおじさんがいるのを班員は見てきた。
伝統は作ろうとして作られるばかりではない。良いものを作ろうという精神がくみ出されて増幅されていくものだ。遙か昔、定演のパンフレットにOBの名前を書くかで調べられるだけ書いた、今に続いている。
「あ、俺の名前がここ書いてにあるよ。初代のパーカッションなんだけど」
「はい?」
「アート・ブレーキーが叩いた太鼓いる?」
「はいはい!」
につながる。
マーチングもロイヤルマリンズのサンダーバードの最後の演奏姿を見て興奮する我々だ。言葉ではなんだよでも心意気に寄り添わずにはいられない。なんでもやってやろうという精神は班員に引き継がれる。成長すると同期は有名な祈念音楽祭の事務局長だったし、後輩は朝の連ドラに出ていた。ただ映画での役は戦争に突き進む将校の役だ。
私の病院に現れた軍人さんに腰ぬかす看護婦さん。
「スイッチが重要なんですよね」
何々?
「Mさんは違います。天皇役だからお弁当が違うんです」
をいをい。そっちかよ。でもスイッチね。確かに。政三先生も同じ敷地内で移動するだけの中学の卒業式でも泣いていてたし、M先生もアートブレーキの話、しゃべらなきゃよかったと言ってたよ。O先生とのお食事会で。スイッチを切り替えなければスマートじゃない。
後輩達よ。何はともあれ身についたこの精神でいけば友達は増える。情けは人のためならず。障害者になっても笑ってくらせるのはこのおかげだと思っている。本日はおめでとうございます。S.W.E.よ永遠に。
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