3.11
3.11に振り返る。
◆
馴染みの飲食店の若い友人にメールを書いた。
被災者の方が炊き出しで暖かいものを口にしてこう言っていました。
「味だけでなく真心が入っているからこのカレーは最高だ。」
「気持ちも暖かくなる。大事にされていると思う。」
もう,耳について耳について離れないほど同じCMが流れています。
「ポポポポーン」…間違えました。こっちです。
「心は誰にも見えないけど心遣いは見える,思いは見えないけど思いやりは誰にも見える」
いい言葉だと思います。繰り返されてだんだん心に染みてきました。みんなの作る料理や接客には心遣いや思いやりが見えます。被災者のために何ができるか。いま誰もが自分ができることは何かを考えています。私も考えています。でも,ボランティアとか特別なことをする必要はないのだと思います。自分がすることが自分の心を表しているものなら,大事なのは心を込めて普段の仕事をしっかりやることなのだと思います。
我々の仕事は社会の大切な一部を担っています。誰もがご飯を作ってもらったり,給仕をしてもらったりします。それは被災者の方も同じです。皆が被災者に心寄せて心を込めて仕事をすれば,それは必ず目に見えるものになります。私は客として皆の心を見てきました。じゃないと何度も来ません。今だからこそ,心を込めて当たり前のことをやる。きちんとやれば食べる人に皆の心が見えて,被災者の方に心寄せることができるでしょう。
「こんなに美味しいものを被災者の人にも食べて貰いたい。配給ではなくて,暖かい言葉をかけられながら笑顔こぼれるお食事として給仕してもらえているのかなぁ」
きっとそう思う。感じた心がその人の次の行為を心遣いとして見えるようにしていく。この連鎖が今必要とされることなのでしょう。
昨日(3月20日)80歳のおばあちゃんと16歳のお孫さんが救出されました。人は独りでは生きていけないのだなぁ。寄り添う二つの心が二人を生還させた,二人は助け合うことで命がつながったのだなぁと実感しました。
生きていると自分は独りぼっちと感じることがあります。でも考えてみれば,我々は生まれたときからお母さんと一緒(多少はお父さんも),独りではなかった。誰かに助けてもらって大人になってきた。そして今は自分の仕事で誰かとつながっている。その繋がりに自信がもてないとき,独りと感じているだけなのですね。
私の友人にMさんという化学の先生がいます。彼は「人には心の故郷(ふるさと)がある。拠り所とする場所がある。教育はその場を豊かにするためにある」と言っています。いい言葉です。今,彼の言っていることが現実として分かった気がします。おばあちゃんと孫を救出したのは,石巻の消防隊員です,そこに駆けつけたのは新潟の消防隊員,そして二人を運んだのは鹿児島の消防署のヘリです。救出の場は人々の思いやりと心遣いに溢れた場所になっていました。皆が故郷に帰ってきています。そこには心が寄り添う故郷が確実にありました。私たちも心をこめて仕事をして,故郷に帰りましょう。故郷は我々の心とともに。
◆
それから,4年の月日が経った。このお店は既に閉店されて今はない。
災害は無くなったり,風化するものではない。いつでも突然にやってくる。いや突然にやってくるものだから災害なのだろう。いずれ大きな災害は来るといっても,誰も深刻に受け止めてはくれない。せいぜい,ああそうですかと頷いてくれるぐらいである。でも,突然緊急地震警報が鳴ると大切な何かを強く思い出さずにはいられない。タイムマシンに憧れて,できたらいいなと思いはしても,自分の中のタイムマシンを大切にはしない。時速一時間の時の旅人なのに。災害がやってくる今に行けないだけだというのに,待ちかまえようとはしない。手をこまねいているだけだ。
店は無くなりはしたが,仲間であることには変わりない。この店のシェフは故郷の広島に戻った。ここで来るべき「今」を待ち,広島の災害では昔の社長であった人とともに炊き出しをしていた。出くわすものではなく,いつか来るものとして備えている。故郷に帰ってくる友を待ち続ける人と同じだ。
この店で時を共有したもの達は,北海道から沖縄,海外まで活躍の場を広げている。帰る場所は無くなったかもしれないが,帰る場所を作っている。料理を味わえば,給仕をうければ里帰りはできる。故郷は仲間の心遣いとともに。
◆
7年が過ぎた。その頃教えてた中学生は大学生になり、M先生は校長先生になった。私は障害者になった。変わらないものなどない。変わることは止められない。でも何かを変えねばという思いは冷めることはない。道を開こうとする受験生もいる。我々は故郷とともにあるのか。合掌。
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