二部一章十一話

「……ふむ。少なくとも君がどういう由来のものかと、君の声をどうして香弥が知っているのかは分かった。ネルに秩序や法則はあってないようなものだからね、たまたま君に出会ってしまったのだろう」

老人に向かって話ながら、香弥に視線を送って、そっとたしなめる。他人に怒りを露わにするのは「らしくない」。紘知に対して口汚く話すことの多い香弥だが、紘知にだけだ。それも、姉を大事に思っているからこそであり、紘知が真に完全無欠でないことと紘知の目的が完全無欠であることを分かっているからだ。そう目で告げられ、香弥も頭を下げる。

「ごめんなさい、ちょっと熱くなりすぎました」

「神なんてものは恨まれるのが仕事さ。そうだろう?」

「その通りだ。気に病むことは何もない」

老人が、紘知の言葉にうなずいた。

「さて。ここからが本題だ。悪いけど、まだまだ時間をもらうよ」

紘知は姿勢を正して座りなおした後、指を組んだ。何かに祈るような仕草で、彼の叔母と同じポーズでもある。他人と話しながら、真剣に何かを考えるとき、彼は決まってこのポーズを取る。雰囲気と、目の色の濃さが僅かに変わった。老人も、紘知の様子に気が付いて、身構える。

「別に緊張しなくても大丈夫さ。また、質問をしていくだけだからね。さて、君の失われた腕の一本を求めて移動している、ということは良いとして、どうして君は外殻を持ったまま移動したんだい?そんなことをすればイーファの目につくことなど、予想はついただろう」

嘘を言えば容赦はしない。老人と、紘知は同時に口を開いた。

「イーファに見つかっても、逃げ切れると思ったから」

「盗んだ犯人が、外殻を必要とするほどの自衛手段を持っているから」

老人の顔色が変わり、紘知はニヤリとする。人の悪い笑顔だ。相手が誰であろうと、確実に弱点を穿ち続けると宣言する笑顔だ。

「本音をなかなか言ってくれないから複数パターンから推理することになったが、当たったみたいで嬉しいよ」

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