二部一章八話

紘知は、「こういうことがあるから君と一緒にいると楽しいんだ」と言いながら、対話する準備をみるみる内に進めていく。あっという間に、針鼠の体表を覆っている古代魔法の言語体系に合わせた翻訳ソフトを作り上げてしまった。

「未来予知して、無理矢理賢くなりながら進めたの?」

未来の自分はこうしている、という情報を読み取ることで、自らの動きを研ぎ澄ませて行ったり、言語や魔術を使いこなせるようにしたりする。「未来予知の基本だ」と本人は言うが、未来予知の専門家に言わせれば「合わせ鏡の枚数を自由自在に操作するような物で、神様でもなければ不可能」だそうだ。

「当然だ。そうでなければ不便でしょうがない。そりゃあ他人が僕のようなことをしないのは理解しているけど、使えるものはきちんと使わなければさび付くものだ。君の趣味の機械いじりだってそうじゃないか。暇さえあれば二輪や四輪を弄っているのと一緒だよ」

私の趣味と一緒にしないで欲しいと思いながら香弥はため息をつく。そうこう言う間にも、紘知は空間圧縮用の術式や宇宙空間で通信を可能にする術式を駆使しながら、対話の準備を済ませていく。

「……よし、これで終わりだ。最初の一言だけど、なんて言うのが一番いいだろうか?」

何を言うかなど決めているくせに、わざわざこちらに話を振る。

「そりゃ、『聞こえますか』とか、『あなたは誰ですか』とか、『はじめまして、僕は宇宙で一番のクソ野郎です』とかじゃないの?」

香弥の話を聞きながら、紘知の青い目は爛々と光り輝いている。見つめられると眩しいくらいだ。

「君の冗談を聞いている内に答えが出たよ。……そうだな、まずはきちんと話しかけてみようか。『汝は古の神とお見受けいたす。わたくしは汝の子孫である。汝、如何なる理由をもって斯様に私どもの安息の地を乱そうとなさるのか、どうか教え給え』」

モニターに映し出されたハリネズミが身じろぎして、カメラ目線になる。動きを止めて、少ししてから、ハリネズミから音が聞こえた。老人の声だ。男性とも、女性ともつかない、しわがれた声で、こちらに向かって話しかけてくる。

「古の言葉を知る者よ。我は失われし我が体を取り戻すのみ。汝らの安息の地に用はない」

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