十章三話

連絡を受けて、「直接実物を見てみたい」と返事を出してから、菊川は飛び出した。願いを叶える青銅の鍵。たとえ手に入れることはできずとも、実在するのだと確認するだけでも励みになると思った。これでようやく世界は変わると思った。電車に乗り、約二時間。待ち合わせ場所に選ばれた駅はそれなりの遠方であったが、全く気にならなかった。早く見たい。それだけで頭がいっぱいだった。

待ち合わせ場所に着くと、男が一人立っていた。眼鏡をかけた、背の高い青年。無精ひげとぼさぼさの髪にくたびれたスーツ。毒にも薬にもならないような曖昧な体格と顔立ち。オンラインショップを営む経営者だということで、もう少し小奇麗な見た目を想像していただけに、拍子抜けした。

「はじめまして、菊川雅さん。待っていたよ。まさか自分が『青銅の鍵』を手に入れられるだなんて思いもしていなかったからね。急に呼びつけるような形になって申し訳ない」

頭を下げる彼に合わせて、菊川も頭を下げる。

「いえ、私も突然押しかけてごめんなさい」

「一応連絡先を渡しておくよ」と言って渡された名刺を見ると、待ち合わせ場所からほど近い国立大学の助教授という肩書だ。

「あのサイトは趣味みたいなものでね。客らしい客は、数人しかいないんだ」



男に連れられて、着いた先は博物館だった。寂れた博物館で、手入れも行き届いておらず、今にも崩れそうなほどに古い。その博物館の裏口へ入ると、すぐには目に飛び込んで来た。

「人形……?」

壊れた、160cmほどのマネキンだった。関節が多く、人間らしい複雑な動きができるようであったが、両足はボロボロで自立できるようには見えない。胴体も、右胸から右の脇腹にかけて、サメか何かに噛まれたように大きく抉り取られており、他にも何か所か小石ほどの大きさの穴が見える。手の指も半分ほど失われており、頭部も大きなへこみがあるので、かなり歪な形状になっている。

「そう、この人形の心臓に当たる部分に『青銅の鍵』が使われている。X線を使うことで見つかったんだ」

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