十章四話

「さて、当然のこととして僕は『青銅の鍵』を人形から取り出そうとした。僕の元に来た時点でこれほどにボロボロの状態だったんだ。ノコギリなりハンマーなりがあれば問題はないと判断した。それが、君に連絡した前後のことだ」

確かに、人形の足元にはノコギリが置かれている。だが、そのノコギリの刃は欠けていて使い物になるようには見えない。

「この人形はどうやら『生きている』。普通の手段では傷がつかない上に、既に開いている穴の中にターナ値観測機のセンサーを入れてみると40~50のターナ値が出る状態だ。自棄になってターナ値12の短剣――無機物であれば鉄だろうと岩だろうと豆腐みたいに捌ける刃物だ――を当ててみたんだが、短剣の方が刃こぼれしてしまった」

さらにもうひとつ、と付け加える。

「熱ならどうだろうかと思って火を近づけてみて驚いた。心臓部の『青銅の鍵』から凄まじい音が響いたんだ。『これ以上暴力を揮うようだったらこの鍵をただではおかないぞ』と示すかのようにね。今ここにある道具じゃもう何もできないから、完全にお手上げだよ」

肩をすくめて見せる青年に笑みを浮かべてから、菊川はしゃがんで、壊れた人形に触れてみる。残った手の指や足の指を触ってみると、指の関節が人間よりも多いのが分かった。人間らしい動きをするための措置のようだ。

「一応動作マニュアルらしきものも貰ったんだが、僕の知らない言語で書かれていてね。知っている言語と大差ないようだから解読にそれほど時間はかからないと思うんだが、まだ手が付けられてないんだ。元々この人形は『家政婦ロボット』だという話だからきちんと修理してやれば動けるようになるかもしれないが、傷がつかないんだから修理も難しいと思っている。体内に安易に手をいれられるほどのターナ値ではないしね」

菊川は、人形の傷を避けながらも触り続けたまま、口を開いた。

「あなたって、古今東西大体の言語は分かるって言ってませんでしたっけ?」

「勿論だ。ターナ値を持つ道具は世界中にある。だからどこへ旅行することになっても一人で商談ができるくらいには話せるつもりなんだが、マニュアルに書かれている言語は今まで見たことがない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る