六章十一話
「それと侑里。君は自分の能力について少々臆病になっているようだから言っておこう。君ではどれほど力を込めたところでその糸を千切ることはできないよ」
それを聞いて、侑里の顔がパッと輝いた。
「待ってください。。それには一体どんな根拠があるんですか?」
侑里が喜びの声を上げる前に、桃が割り込んだ。不安そうな顔をしている。
「根拠か……。侑里。『第三の手』が自分の体の一部であるという自覚はあるかい?」
「えっ?」
侑里は、改めてまじまじと自分の『第三の手』を見つめる。自分の体の一部、と言うには空中や地面から出現するものであるので、少し違和感がある。確かに自分の思った通りに動かすことができるものだが、ここでは暴れまわって抑え込むのに苦労した。
「えっと……」
『第三の手』を握ったり開いたりしながら色々なことを思い出す。
そう言えばまだ幼かった時にも、この『第三の手』が癇癪に任せて暴れまわったり、不機嫌な時に突如出現したりと、困ったことがあったのを思い出した。自分の背が低いせいで助けられたことも多いが、苦労したことも少なくはない。今はそれほど気になっていないというだけだ。
「困った同居人とかだったら分かるんですけど、そう言われてみると自分の体だとはあんまり思わないです」
しどろもどろになりながらそう言うと、『森の意志』は頷いた。
「私はその『第三の手』の本来の持ち主を知っている。何かが起こって――おおよそ、『孤独の樹』の力だとは思うが――本来の持ち主から借りているような形なのだろう。その繋がりを強めた、といった辺りが、私のしたことだと言えば、桃は納得してくれるかい?」
『森の意志』は嘘をついているような口調だが、桃は考え込む仕草になる。どうやら心当たりがあるようだ。
「……分かりました、信じます。でも、何かおかしなことが起こったら真っ先にあなたを恨むことにします」
桃が引き下がろうとすると、侑里の前に萌子が立って、『森の意志』を睨みつけながら言った。
「待って。あなたは人の魂を糧にするような存在でしょう?私たちの命を目当てに騙していない証拠は?」
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