六章十話
侑里が恐る恐る『森の意志』に触れてみると、きちんと掴んで、自由に動かせる。座りながら、『森の意志』は言った。
「畳に埋め込むように、私の手を動かしてごらん」
言われた通り、真っ直ぐ手を畳にめり込ませるように動かすと、『森の意志』の手は埋まり、引っ張ると元に戻った。
「不気味……」
萌子が呟くと、桃が言う。
「幽霊の動きは大体こんな感じですよ。ゲームのチートかバグみたいな動きをよくします」
侑里もそれに続けて、
「私は研究所で、別の神徒の能力で透明になったコップとかペンとかを動かす実験をしたことあるよ?こんな感じで、普通に触っても通り抜けちゃう変なのを振り回したりぶつけたりするの」
と言った。
肩をすくめる萌子に苦笑してから侑里の『第三の手』から逃れると、『森の意志』は言った。
「侑里。『第三の手』の指先にはきちんと意識を集中させた方が良い。君自身と、友人のために」
『森の意志』はどこからともなくナイフを出現させると、それを萌子に突き刺そうとした。
しかし、その動作に三人が気がついた時には、『森の意志』は侑里の『第三の手』によって突き飛ばされていた。痛みを、『第三の手』から感じる。見ると、ナイフの先端が少しだけ、『第三の手』に刺さっている。『森の意志』がナイフを抜くと痛みは消え、血が出る様子もなかった。
「本来であれば痛覚と触覚は持ち得るべきなのだが、君の能力の場合にはそんなことをしようと思ったらひたすら訓練漬けの生活になる。そんな必要は、『孤独の樹』にはない」
三人とも、そんな『森の意志』の言葉には聞く耳を持たず、怒鳴った。
「なんであんなことをしたんですか!」
「必要なことだからだ。僕やナイフがもしも触れれば爆発するようなものであったなら、ここで全滅してしまう。だから覚えておくんだ。能力を使う場合には、必ず冷静でなければならないと。今の君の手であれば、意識して練習するだけで、人から魂だけを抜き出すことができるようになる。やれ、という意味ではなく、花びらに触れる時にはそういった動きを心がけるべきだという話だ。見知らぬ物、不審な物に触れる時には必ず落ち着いて、丁寧に。たとえかけがえのない友人の危機であってもね」
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